マイクロアレイ

マイクロアレイ

マイクロアレイ（Microarray）とは、数百から数千個といった多数の検査・実験対象となる試料や分子などを、小さな基板の上に規則正しく配置・固定し、これら全てに対して同時に解析を行うための手法、あるいはその際に使用されるツール全般を指す言葉です。「アレイ（Array）」とは、整列・配列されたものの意味であり、対象数が比較的少ない場合には「マクロアレイ（Macroarray）」と区別して呼ばれることもあります。

この技術は、特に生物学、医学、薬学といった生命科学の分野において、20世紀末頃から急速に発展し、広く利用されるようになりました。当初は核酸を標的とするDNAマイクロアレイ（DNAチップとも呼ばれる）が中心でしたが、その後、様々な対象に応用が広がっています。

マイクロアレイの最大の特長は、その網羅的な解析能力にあります。一度に大量の情報を取得できるため、多様な要素の関係性を包括的に理解するのに役立ちます。この特性は、膨大な生物学的データを解析するバイオインフォマティクスや、個々の患者の体質や病状に合わせて最適な治療法を選択するテイラーメイド医療（個別化医療）といった分野において、重要な基盤技術として期待されています。

主なマイクロアレイの種類としては、以下のようなものが挙げられます。

DNAマイクロアレイ（DNAチップ）: DNA断片などを基板に固定し、これと相補的な塩基配列を持つDNAやRNAを検出・定量します。遺伝子発現解析や遺伝子多型解析などに広く用いられます。
タンパク質マイクロアレイ: 多様な種類のタンパク質を固定し、抗体や低分子化合物などの結合反応を検出します。疾患マーカーの探索や薬剤スクリーニングなどに利用され、特定の抗原に対する抗体を検出する「抗体マイクロアレイ」も代表的です。プロテインチップと呼ばれることもありますが、これは網羅的でないものにも使われることがあります。
細胞マイクロアレイ: 生きた細胞や処理した細胞を多数基板上に培養または配置し、薬剤反応やタンパク質発現など、特定の挙動を示す細胞を検出します。DNAアレイを用いて細胞を誘導・培養する方法もあります。
組織マイクロアレイ: 多数の非常に小さな組織標本を規則的に配置したものです。これに対し免疫組織化学染色などを施すことで、多数の組織サンプルにおける特定の分子の発現状況などを一度に比較検討できます。
* 化合物マイクロアレイ: 多種類の低分子化合物を固定化し、これに対するタンパク質などの結合反応を検出します。特に医薬品開発における新規リード化合物の探索などで、コンビナトリアルケミストリーの手法と組み合わせて活用が進んでいます。

これらのマイクロアレイの中には、特にDNAや化合物を対象とするものの一部で、半導体製造などに用いられるフォトリソグラフィ技術が基盤となっています。しかし、組織マイクロアレイのように、古くからある組織標本の作製技術に現代的な工夫を加えて発展したものもあります。また、タンパク質マイクロアレイのように、固定化の際にタンパク質の機能を維持するための特殊な技術が必要とされる場合もあり、対象とする分子の種類によって技術的な課題やアプローチが異なります。

マイクロアレイは、現代の生命科学研究や診断において、多数のデータを効率的に取得するための不可欠なツールとなっており、バイオインフォマティクスや各種オーミクス解析、システム生物学といった関連分野の発展に大きく貢献しています。

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