マイケル・トマセロ

マイケル・トマセロ（Michael Tomasello、1950年1月18日 - ）は、アメリカ合衆国出身の認知心理学者です。フロリダ州バートウに生まれた彼は、現在デューク大学の教授を務めています。その研究は多岐にわたり、特に霊長類の認知やヒトの発達心理学、そして言語がどのように獲得されるのかというテーマに深く取り組んでいます。

トマセロの研究は、言語学において長く影響力を持ってきた、チョムスキーの普遍文法仮説に対する重要な代替案として注目されています。普遍文法仮説が生得的な「言語の機構」（faculty of language）を想定するのに対し、トマセロはこのような生得的な仕組みの存在を否定します。彼の提唱する言語獲得理論は「社会語用論的アプローチ」あるいは「使用に基づく理論（usage-based theory）」と呼ばれ、言葉の習得は、生まれ持った普遍的な文法構造によるのではなく、現実のコミュニケーションにおける言葉の「使用」を通じて段階的に行われると考えます。

具体的には、言語獲得の初期段階では、「動詞島仮説」に見られるように、子どもは個別の単語や特定のフレーズのまとまり（例えば、ある特定の動詞を使った表現）をまず固定された表現として学習します。そして、これらの具体的な表現から徐々に一般的なパターンや規則を抽出し、より抽象的な文法構造を構築していくという、ボトムアップ的なプロセスを経ると主張しています。この理論の大きな特徴は、言語獲得において社会的・コミュニケーション的な側面に重きを置く点です。子どもと養育者との間の共同注意（joint attention）といった、互いの意図を共有し、同じ対象に注意を向けるような社会的な相互作用が、言葉の意味や用法を理解し、言語構造を学ぶ上で決定的に重要な役割を果たすと考えられています。

トマセロは学術的な経歴も輝かしいものです。1972年にデューク大学で心理学の学士号を取得した後、1980年にはジョージア大学で実験心理学の博士号を取得しました。キャリアの初期にはエモリー大学やヤーキーズ霊長類研究所に在籍し、霊長類の認知に関する研究を進めました。その後、1998年から2018年までの長きにわたり、ドイツにあるマックスプランク進化人類学研究所で理事を務め、世界の主要な研究機関の一つを率いました。現在は同研究所の名誉理事を務めています。2016年からは母校であるデューク大学に戻り、心理学・神経科学科の教授として教育と研究に励んでいます。

彼の学術的な貢献は高く評価されており、数々の権威ある賞を受賞しています。2006年にはジャン・ニコ賞、2010年にはハイネケン賞、そしてマックス・プランク賞といった国際的に著名な賞を受けています。

トマセロの理論は多くの著書にまとめられています。特に代表的なものとしては、ジェシー・コールとの共著である『Primate cognition』（1997年）で霊長類の認知能力を詳細に論じました。また、ヒトの認知の文化的起源に迫る『The cultural origins of human cognition』（1999年）、そして自身の言語獲得理論を体系的に展開した『Constructing a language: A usage-based theory of language acquisition』（2003年）は、この分野の古典として広く読まれています。これらの著作の多くは日本語にも翻訳されており、日本の研究者や学生にもその思想が広く知られています。

公式サイトも公開されており、彼の最新の研究や活動について知ることができます。

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