マイコバクテリウム属

マイコバクテリウム属：多様な疾患を引き起こす細菌

マイコバクテリウム属(Mycobacterium)は、グラム陽性菌に分類される細菌の一種です。170種以上の多様な菌種が存在し、その多くはヒトや動物に様々な感染症を引き起こします。本稿では、この細菌の性質、特徴的な培養特性、そして代表的な菌種について解説します。

細胞壁と染色特性

マイコバクテリウム属細菌の細胞壁は、特徴的な構造を持っています。他のグラム陽性菌と同様にペプチドグリカン層を持ちますが、それに加えて大量のミコール酸というロウ質物質を含んでいます。このミコール酸の存在が、この属の細菌の性質を大きく左右します。

[ミコール酸]]は、細胞壁に疎水性を付与し、染色液が細胞内に浸透しにくくします。そのため、通常のグラム染色では染色されにくく、グラム不定型と呼ばれます。しかし一度染色されると、酸やアルコールによる脱色処理にも抵抗性を示します。この性質から、マイコバクテリウム属細菌は「[[抗酸菌]」とも呼ばれています。

生育条件と培養特性

マイコバクテリウム属細菌は好気性菌であり、酸素の存在下で生育します。窒素源としてはアンモニアやアミノ酸を利用し、炭素源としてはグリセロールなどを用いることができます。生育に適した温度は菌種によって異なり、25℃から50℃以上の範囲に渡ります。

多くの種は血液寒天培地で培養できますが、生育速度は菌種によって大きく異なります。特に結核菌やらい菌などは、非常に遅い増殖速度を示します。例えば、らい菌(M. leprae)の増殖サイクルは20日以上かかる場合があり、大腸菌などの迅速に増殖する細菌とは対照的です。

代表的な菌種

マイコバクテリウム属には、様々な病原菌が含まれています。代表的な菌種を以下に示します。

結核菌群

ヒト型結核菌 (M. tuberculosis): 人間の結核を引き起こす主要な病原菌です。
ウシ型結核菌 (M. bovis): ウシに結核を引き起こします。減毒されたものはBCGワクチンとして利用されます。
ネズミ型結核菌 (M. microti): ネズミに結核を引き起こします。

らい菌群

らい菌 (M. leprae): [ハンセン病]を引き起こす菌です。非常にゆっくりと増殖します。

非結核性抗酸菌群

非[結核]]性抗酸菌]は、[[結核菌やらい菌以外のマイコバクテリウム属細菌の総称です。環境中に広く分布しており、免疫力の低下した人などに感染症を引き起こすことがあります。代表的なNTMとしては以下のものがあります。

Mycobacterium avium: 人間の肺に感染し、非結核性抗酸菌症を引き起こします。
Mycobacterium intracellulare: 非結核性抗酸菌症を引き起こします。
Mycobacterium kansasii: 非結核性抗酸菌症を引き起こします。
ヨーネ菌 (M. avium subsp. paratuberculosis): ウシにヨーネ病を引き起こします。
* Mycobacterium ulcerans: ブルーリー潰瘍を引き起こします。

学名の由来

属名Mycobacteriumは、「myco-」と「bacterium」から構成されています。「myco-」はギリシャ語の「μυκης」(mykes)に由来し、「キノコ」や「ロウ」を意味します。これは、菌糸状に生育する種や、細胞壁のロウ質成分を反映していると考えられます。「bacterium」は細菌を意味します。

まとめ

マイコバクテリウム属は、その細胞壁の特殊な構造と多様な病原性を有する重要な細菌群です。結核やらい病といった深刻な感染症を引き起こす菌種が含まれる一方で、環境中に広く分布する非病原性の種も存在します。それぞれの菌種の特性を理解することは、感染症対策や治療において非常に重要です。

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