マイヤー (百貨店)

概要

オーストラリアの小売業界において、マイヤー（Myer）は最大の百貨店チェーンとしての地位を確立しています。国内の全州に店舗を展開している唯一の百貨店であり、その広範なネットワークと長い歴史は、オーストラリアの消費生活に深く根ざしています。マイヤーの事業は、創業当初から現在に至るまで、絶えず変化と拡大を続けてきました。

沿革

マイヤーの起源は、1900年にシドニー・マイヤーとその兄弟が、ビクトリア州中部の都市ベンディゴで小さな小売店を開業したことに遡ります。兄弟は商才に長け、事業はすぐに軌道に乗りました。わずか8年後の1908年には、ベンディゴ市内に2番目の店舗をオープンさせるなど、着実に規模を拡大していきます。

真の飛躍は、1911年にオーストラリア最大の都市の一つであるメルボルンへの進出によってもたらされました。マイヤーはメルボルン都心部の主要な商業地区であるバーク通りに新たな店舗を開設し、これを旗艦店と位置づけました。その後もマイヤーは、バーク通りの周辺不動産を戦略的に購入し続け、店舗を大規模に拡張していきました。この過程で、マイヤーは単なる小売業の経営者としてだけでなく、広範な不動産を所有し、開発を行う側面も持つようになります。

マイヤーの事業拡大戦略は、ビクトリア州内にとどまらず、他の州への展開へと向かいます。彼らは積極的に他州の有力な百貨店を買収することで、急速に全国的なネットワークを構築していきました。

小売事業の多角化も重要な要素でした。1968年には、ビクトリア州のジーロングを拠点としていたリンゼイズ（Lindsay's stores）という小売グループを買収しました。この買収を機に、マイヤーはアメリカ合衆国の著名なディスカウントストアチェーンであるターゲット（Target Corporation）から、その名称とロゴタイプを使用する許諾を得て、新たなディスカウント百貨店チェーン事業をスタートさせます。これが現在のオーストラリアにおけるターゲットの起源の一つとなります。

1980年代は、オーストラリア小売業界の再編が盛んに行われた時期でした。1983年、マイヤーはシドニーの中心部にあった自社店舗を、同じくシドニーを拠点とする競合百貨店であるグレース・ブラザーズ（Grace Brothers）に売却するという取引を行いました。しかし、これは単なる店舗売却ではなく、同時進行でマイヤーはグレース・ブラザーズの持株会社であるウォルドン・インベストメンツ（Walden Investments）を買収していました。この結果、マイヤーのシドニー店はグレース・ブラザーズの名称に変更され、マイヤーグループ内にグレース・ブラザーズ事業が組み込まれる形となりました。

さらに歴史的な出来事となったのは、1985年8月です。マイヤー・エンポリアム・リミテッド（Myer Emporium Ltd）は、オーストラリア全土に広がるスーパーマーケットチェーンを展開する巨大企業、GJコールス・アンド・コイ・リミテッド（GJ Coles & Coy Ltd）との合併を発表しました。この合併は、当時のオーストラリア企業史上最大規模の合併とされ、新会社は1986年1月に「コールス・マイヤー・リミテッド（Coles Myer Limited）」と改称されました。これにより、マイヤーの百貨店事業は、食品スーパーやその他の小売事業を含む巨大なコングロマリットの一部となりました。

しかし、この巨大グループ内での位置づけも時を経て変化します。2004年には、マイヤーグループ内で運営されていたグレース・ブラザーズの全店舗が、再びマイヤーのブランド名に統一されることになりました。そして2006年、コールス・マイヤー・リミテッド（この後、食品スーパー事業などが独立し、現在のコールス・グループとなります）は、中核事業であるマイヤーの百貨店部門を売却することを決定しました。この事業は、世界的なプライベートエクイティファンドであるニューブリッジ・キャピタルと、マイヤー家の末裔を含む投資家グループが設立した連合体に引き継がれました。この売却により、かつてマイヤーが立ち上げたターゲット事業はコールス・グループ側に残り、マイヤーは純粋な百貨店事業として新たな資本のもとで独立した道を歩み始めることとなります。

現在のマイヤー

独立後のマイヤーは、百貨店事業に特化し、オーストラリア全土に広がる店舗ネットワークを通じて、ファッション、化粧品、家庭用品など幅広い商品を提供しています。その長い歴史の中で培われたブランド力と、国内唯一の全州展開百貨店としての地位は、現在も変わらずオーストラリア小売市場における重要な存在であり続けています。

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