マウンダー極小期

マウンダー極小期：太陽の沈黙と地球への影響

マウンダー極小期（Maunder Minimum）は、およそ1645年から1715年にかけて観測された、太陽黒点数の著しい減少と太陽活動の弱体化を特徴とする期間です。この名称は、太陽黒点の消失に関する過去の記録を研究した太陽天文学者、エドワード・マウンダーに由来します。

この期間、通常であれば4～5万個観測される太陽黒点は、わずか50個程度しか確認されませんでした。この極端な減少は、太陽磁気活動の低下を意味し、地球の気候や環境に多大な影響を与えたと考えられています。

稀有な観測記録：パリ天文台の貢献

マウンダー極小期における詳細な太陽黒点数の記録が残されているのは、17世紀のパリ天文台における組織的な太陽面観測が開始されていたことが大きいです。ジャン・ピカールやフィリップ・ド・ラ・イールといった天文学者たちの地道な観測活動が、この期間の太陽活動の変動を正確に捉えることを可能にしました。

1610年から1681年までの10年ごとの観測データから、マウンダー極小期においても、太陽黒点数の11年周期の変化は確認できます。しかし、その数は非常に少なく、活動は太陽面の南半球に集中していました。晩年には例外的に北半球でも観測されるようになり、名古屋大学の研究グループによる炭素14分析からは、周期が14年に変動していた可能性も示唆されています。

地球気候への影響：小氷期との関連性

マウンダー極小期は、中世の小氷期における寒冷化の一因として注目されています。この期間、ヨーロッパや北米など温帯地域では厳しい寒冬が続き、夏至であっても夏の暑さが訪れない年が続きました。北半球の平均気温は、極小期の前後で0.1～0.2度低下したと推定されています。

東京大学、名古屋大学、名古屋工業大学の共同研究では、江戸時代の日本の気候を分析。奈良県内の老木の年輪から、マウンダー極小期における日本は周期的に雨の多い湿潤な気候であったことが明らかになりました。

しかしながら、太陽黒点活動の低下と地球気温の変化の関連性については、まだ解明されていない部分も残っています。例えば、2010年頃の太陽活動極小期では、太陽放射の減少にも関わらず、スペクトルの変化による大気吸収の増加の可能性も指摘されています。

その他の観測記録：宇宙線と太陽自転

マウンダー極小期の太陽活動低下は、地球への宇宙線輻射量に影響を与えました。その結果、炭素14の生成量に変動が生じ、放射性炭素年代測定の結果に修正が必要となりました。ベリリウム10などの宇宙起源の放射性同位体の変動も、太陽活動との相関性を示しています。

氷床コアや年輪の分析からは、シュペーラー極小期やダルトン極小期など、過去に他の太陽黒点極小期が存在したことが明らかになっています。これらを含め、過去8000年間で18の極小期が確認され、現在の太陽活動は極小期の1/4程度を過ぎた時期にあるとされています。

近年発表された研究では、ヨハネス・ヘヴェリウスやジョン・フラムスティードの観測記録を基に、マウンダー極小期最中の1666年から1700年にかけて太陽の自転周期が長くなっていた可能性が指摘されています。興味深いことに、この期間のオーロラの観測頻度には変化がなく、ウィルフリート・シュローダーによる詳細な分析が発表されています。

マウンダー極小期に関する研究は、Case studies on the Spörer, Maunder and Dalton Minima.といった基礎的な論文を起点に、現在も活発に進められています。これらの研究は、太陽活動の長期変動と地球環境との複雑な相互作用を解明する上で重要な手がかりを提供しています。

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