マガディ湖

ケニアの驚異、マガディ湖：強アルカリ性塩湖の謎と魅力

ケニア南西部、リフトバレー州に位置するマガディ湖は、その特異な環境で知られる塩湖です。首都ナイロビから南西約120km、タンザニア国境に近いナトロン湖の近傍にあり、マサイ語で「苦い」を意味する言葉に由来する名称を持つとされています。

マガディ湖の最大の特徴は、その強いアルカリ性です。pH10を超える高アルカリ性の湖水は、炭酸ナトリウムを豊富に含み、莫大な量のトロナ鉱石（セスキ炭酸ナトリウム）を沈殿させています。この塩の層は場所によっては厚さ40メートルにも達し、湖の広大な面積を覆っています。

湖水の供給源は、主に水温86℃に達する高温の塩水泉です。これらの熱水泉は湖の北西岸と南岸に沿って分布しており、湖周辺のアルカリ性の潟湖から湧出しています。乾燥したこの地域では地表の水の流出が遅いため、雨季には塩水の薄い層が湖面を覆いますが、すぐに蒸発し、広大な白い塩原を形成します。この塩は割れて大きな多角形を作り、ソーダの白い結晶と特殊な藻類の色が織りなす独特の景観を作り出しています。

驚くべきことに、この過酷な環境下でも、キクラ科の魚、アルコラピア・グラハミが生息しています。この魚は水温45℃以下の湖岸周辺の熱水泉プールで普通に見られます。また、マガディ湖はフラミンゴをはじめとする様々な渉禽類の生息地としても知られており、豊かな生物多様性を支えています。

しかし、マガディ湖は常にこのような高塩分濃度だったわけではありません。数千年前の更新世後期から完新世中期にかけては、現在の湖とは全く異なる環境でした。当時のマガディ盆地は、多くの魚類が生息する淡水湖だったと考えられています。この時代の証拠は、ハイマガディ層と呼ばれる湖成および火山砕屑物堆積物の中に保存された魚類の化石から得られています。さらに、より古い更新世には、現在のマガディ湖よりもはるかに大きな古湖が存在していたという証拠もあり、当時マガディ湖とナトロン湖は一つの巨大な湖を形成していた可能性が示唆されています。

マガディ湖は、その独特の環境に加え、広範囲な珪質チャート堆積物でも知られています。湖の中で形成された成層チャートや、シリカが軟らかいうちに上の堆積物を突き破って形成された貫入岩脈状の岩体など、多様なチャートが見られます。中でも特に注目されているのが、「マガディ型チャート」です。これは1960年代に発見された、珪酸ナトリウムの鉱物前駆体であるマガディアイトから形成されるチャートで、地質学研究において重要な標本となっています。

湖の東岸にはマガディの町があり、タタ・インディアが所有するマガディ・ソーダ工場が立地しています。この工場は、工業用途のソーダ灰を生産しており、マガディ湖の資源を経済的に利用しています。ナイロビからのアクセスも良好で、車で約2時間と比較的容易にアクセスできます。

最後に、マガディ湖は映画のロケ地としても有名です。ジョン・ル・カレの小説を原作とした映画『ナイロビの蜂』では、湖畔のシーンの撮影が行われました（ただし空中撮影はトゥルカナ湖）。

マガディ湖は、その特異な地質学的特徴、生物学的側面、そして歴史的な意義から、科学的にも文化的にも重要な場所であり、今後も研究と保全が続けられるべき場所と言えるでしょう。

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