マキバサシガメ

マキバサシガメは、カメムシ目、トコジラミ下目に属する昆虫群で、マキバサシガメ科（Nabidae）として分類されています。世界中に広く分布しており、その名の通り草地や牧草地などでよく見られます。他の昆虫を捕食する性質を持つ、肉食性のカメムシです。

姿や名前に共通点が多いサシガメ科（Reduviidae）も捕食性のカメムシですが、マキバサシガメ科とは別のグループに属します。両者の類似性は、同じような生活様式に適応する過程で形態が似通った結果（収斂）であり、直接的な系統関係は遠いとされています。科の学名「Nabidae」は、この科の代表的な属である Nabis に由来します。この属名は、古代ギリシャのスパルタに実在した僭主ナビスにちなんで名づけられたと言われています。英語では「Damsel bug」と呼ばれ、「乙女虫」という意味合いを持ちます。

特徴

形態

マキバサシガメ科の昆虫は、体長が6mmから13mm程度で、一般に細長い体つきをしています。種類によっては、華奢で繊細な印象を与えるものも少なくありません。体色は、周囲の環境に溶け込みやすい茶色や褐色系が多いですが、一部には鮮やかな色彩を持つ種類も知られています。

サシガメ科と外見が似ていますが、頭部の形状に違いが見られます。サシガメ科に見られる頭部を前部と後部に分ける横溝は、マキバサシガメ科にはありません。通常、よく発達した複眼に加えて、2つの単眼を備えています。糸状の触角の長さは、生活様式によって異なり、地上で活動する種では体長の半分よりも短い傾向がありますが、植物上で生活する種では体長よりもはるかに長いことが多いです。

口吻は、腹面に折りたたんだ際も中間部が体に密着せず、側面から見ると円弧を描くように曲がっています。この点はサシガメ科の口吻に似ていますが、大きな違いとして、マキバサシガメ科の口吻は明確に4節で構成されるのに対し、サシガメ科は3節です。

獲物を捕らえる際には前脚を用います。この前脚は捕獲に特化して発達しており、カマキリの鎌のように使って獲物をしっかりと掴み、体液を吸います。

翅は原則として4枚ありますが、同じ種類の中でも個体によって翅の形に多様性が見られます。腹部全体を覆い飛翔が可能な「長翅型」から、飛翔に適さない「短翅型」まで存在し、さらに短翅型の中にも、翅脈が完全に消失した痕跡的なものや、サイズは小さいものの翅脈が残っているものなど、複数のタイプが存在することがあります。翅がよく発達した長翅型の個体は、頻繁に飛ぶ姿が観察されます。

生態

マキバサシガメは、幼虫も成虫も他の昆虫を捕食する肉食性です。自分よりも体の小さい昆虫などを主な獲物とします。平地から山地まで様々な環境に生息していますが、特に草地や背の低い植物が茂る場所の草本上でよく見られます。樹上で生活する種は少ないです。また、「マキバ」という名前が示すように、人の手の入った環境、例えば牧草地や庭などでもしばしば見られます。加えて、湿地や河原といった特定の環境に特異的に生息する種も存在します。

アシブトマキバサシガメ亜科のように地上で活動する種もいますが、多くの種類は植物体上で生活し、そこで出会う小型の昆虫類を捕らえて食べます。卵は、ナスやバナナのような特徴的な形をしています。メスは、ナイフのような形状の産卵管を使い、植物の表面を切り裂いてその組織内に産み付けるのが一般的です。この産卵方法も、基物の表面に卵塊を産み付けるサシガメ科とは異なる点です。

人との関係

マキバサシガメは、アブラムシやメイガの幼虫など、農作物や園芸植物に被害を与える害虫を捕食することから、人間にとっては益虫として認識されることがあります。ただし、基本的には捕食対象の広い「ゼネラリスト」（広食者）であり、特定の害虫だけを専門に狙うわけではありません。餌が不足した場合には、同種間で共食いを行うこともあります。

しかし、たとえ特定の害虫が大発生する前の段階であっても、マキバサシガメのようなゼネラリスト捕食者が存在することで、害虫の個体数を一定の低いレベルに抑える役割を果たすことが、近年重要視されています。間接的な関わりだけでなく、他のカメムシ類と同様に、偶発的に人間の皮膚を口吻で刺してしまうケースも報告されていますが、意図的に人を襲うわけではありません。

分類

マキバサシガメ科は、一般的にはマキバサシガメ亜科（Nabinae）とアシブトマキバサシガメ亜科（Prostemminae）の2つの亜科に大きく分けられます。しかし、それより下位の属や種・亜種の分類については、研究者によって見解が異なる場合があり、その扱いは流動的です。世界には約21属500種、あるいは約31属380種が存在すると言われています。

外見や名前が似ているサシガメ上科のサシガメ科とは、かつて同じグループに分類されたこともありましたが、前述の通り、外見上の類似は収斂の結果と考えられており、現在では別の系統として扱われています。近縁なグループとしては、メスの発達した産卵管といった共通の特徴から、ハナカメムシ科やカスミカメムシ科が挙げられています。

日本には、マキバサシガメ科としておよそ8属27種が生息していることが知られています。中には環境省のレッドリストで準絶滅危惧種（NT）に指定されているツマグロマキバサシガメのような種も含まれています。

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