マキラドーラ

マキラドーラ：メキシコの輸出加工制度

マキラドーラ（maquiladora de Exportación）は、1965年にメキシコで制定された、輸出製品の製造に使用する原材料や部品、機械などを無関税で輸入できる保税加工制度です。この制度は、メキシコ経済の発展に大きく貢献し、中南米の他の国々（パラグアイ、ドミニカ共和国、エルサルバドルなど）でも同様の制度が採用されています。

メキシコにおけるマキラドーラの概要

メキシコのマキラドーラ制度は、比較的安価な労働力、優遇税制、そしてアメリカへの地理的な優位性を活かし、雇用の創出、外貨獲得、貿易収支の改善、国内産業の国際競争力強化を目的として導入されました。さらに、労働力の向上と技術移転も促進する役割も担っています。

現在、マキラドーラには以下の4つの登録形態があります。

1. 工業マキラ (Maquiladora Industrial)：輸出を目的とする製品に加工や製造を加えるオペレーション。
2. サービスマキラ (Maquiladora de Servicios)：輸出を目的とする製品にサービス（商社機能、梱包、検査、切断、修繕など）を加えるオペレーション。
3. マキラ・コントローラー (Maquiladora Controladora de Empresas)：2社以上のマキラオペレーションを統括・管理する形態。
4. 休閑施設マキラドーラ (Maquiladora de Albergue)：外国企業が技術や製造材料を提供し、メキシコ企業が間接的に委託加工を行うプロジェクト。

一般的に「マキラドーラ」という場合、工業マキラを指すことが多いです。制度創設当初は、製品の100%輸出が義務付けられていましたが、1994年以降は制限付きで、2001年からは無制限で国内市場での販売も可能になりました。ただし、無関税で輸入した部品や原材料を使用する場合は、全生産量の10%以上、機械や設備の場合は30%以上の輸出が義務付けられています。

1994年のNAFTA（北米自由貿易協定）の発効は、マキラドーラの成長を加速させました。発効前5年間の伸び率が47%だったのに対し、発効後の5年間では86%に達しました。また、発効前は主にアメリカとの国境地帯に限られていたマキラドーラは、発効後は国境から離れた地域にも設置され、地域経済の発展に貢献しました。

しかし、2000年代に入ると、中国などの経済特区との競争が激化し、関税面での優遇措置だけでは外国企業の誘致が難しくなってきました。

マキラドーラの運用形態

アメリカとメキシコ間では、メキシコに子会社（工場）を設立するケースや、メキシコの委託専門企業に生産を委託するケースがあります。日系企業の場合、アメリカに子会社、メキシコに孫会社（工場）を設置する「ツイン・プラント方式」や、アメリカの子会社がメキシコの委託専門企業に生産を委託する「シェルター方式」が一般的ですが、多くの日系企業はツイン・プラント方式を採用しています。

マキラドーラの税制

マキラドーラ制度における税制は、輸入税、所得税、付加価値税の3つに分類できます。

輸入税

輸入税は、FTA（自由貿易協定）の締結国への輸出を条件とした関税の減免措置が禁止されている場合と、それ以外の場合で異なります。

FTAにより締約国への輸出を条件とした関税の減免措置が禁止されている場合
部品・原材料の輸入：FTA締結相手国への輸出の場合、関税が課されます。FTA締結国原産の部品・原材料にはFTA税率が適用されます（NAFTAの場合は0%）。
機械・設備の輸入：2000年11月20日以降の輸入に関税が課されます。FTA締結国原産の機械・設備にはFTA税率が適用されます。
PROSEC登録企業によるPROSEC対象品目の輸入：PROSEC税率が適用されます。
それ以外の場合
原材料・部品の輸入：無関税です。
機械・設備の輸入：2001年1月以降に関税が課されます。ただし、PROSEC認定企業がPROSEC対象品目を輸入する場合は、PROSEC税率が適用されます。

所得税

ツイン・プラント方式を採用する企業は、メキシコ側の工場、建物、機械・設備をアメリカ子会社が所有し、メキシコの工場には無償貸与する形態を採ることが多いです。この場合、メキシコでの所得は表面上発生しないため、メキシコ財務省は移転価格税制を適用し、マキラドーラ企業に対して一部法人所得税のみなし課税を行っています。2004年現在、サービスマキラを除くマキラドーラ企業には、マキラドーラ工場で使用される資産の6.9%か、操業コストの6.5%のどちらか高い方を課税利益とみなし、32%の法人税が課税されています。また、APA（Advance Price Agreement）という制度を利用して、財務省と個別に課税ベースを決定することも可能です。

付加価値税

マキラドーラは、輸入時に「一時輸入」という形態を利用できるため、付加価値税（IVA）を支払う必要がありません。

マキラドーラの変遷

マキラドーラ制度は、メキシコ人のアメリカへの出稼ぎ問題とも深く関わっています。1964年にアメリカのメキシコ人労働者受け入れ政策が終了した結果、メキシコ国内の失業者が増加し、特に北部国境地帯での社会的緊張が高まりました。この問題を解決するために、雇用拡大に繋がるマキラドーラ制度が導入されました。

以下に、マキラドーラ制度の主な変遷をまとめます。

1965年：マキラドーラ制度の導入
「メキシコ国境工業化計画」の一環として、輸出向け工業を開発するために導入されました。
設立はアメリカとの国境線から20km以内に限定され、全額外国資本の出資が認められました。
1972年：マキラドーラ設置地域の拡大
設置地域が全国に拡大されました。
2000年：NAFTAルールの実施
NAFTA域内向けの輸出に使用する部品・原材料の保税輸入が認められなくなりました。NAFTA域外向けの輸出には、引き続き関税・付加価値税免除の恩恵が受けられます。
2003年：マキラドーラの再定義
マキラドーラの定義が改められ、4つのカテゴリーに再分類されました。また、複数のマキラドーラを統括する「マキラドーラ・コントローラー」が新設されました。

メキシコでのマキラドーラの主な所在都市

ティフアナ
エンセナーダ
テカテ
メヒカリ
ノガレス
アグアプリエタ
シウダー・フアレス
チワワ
オヒナガ
シウダー・アクーニャ
ピエドラス・ネグラス
ヌエボ・ラレド
モンテレイ
レイノサ
マタモロス

関連事項

NAFTA（北米自由貿易協定）
PROSEC
レグラ・オクターバ
* PITEX

この解説では、マキラドーラの制度、税制、運用形態、歴史的変遷、そして現在の状況について詳しく説明しました。この情報が、マキラドーラ制度の理解に役立つことを願っています。

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