マギステル・エクィトゥム

マギステル・エクィトゥム：共和政ローマの非常任公職

マギステル・エクィトゥム（ラテン語: Magister Equitum）は、共和政ローマ時代に設置された非常任の公職であり、日本語では「騎兵長官」「騎士長官」「主馬頭」などと訳されます。この職は、独裁官（ディクタトル）が任命された際に、その補佐役として選出されました。特に、独裁官が戦争などの非常事態に対処する際に、その補佐役として重要な役割を担いました。

職務と選出

マギステル・エクィトゥムは、独裁官が指名することで任命されました。ただし、ポエニ戦争中の例外として、元老院の議決によって選出されたケースも存在します。独裁官が不在となった場合、マギステル・エクィトゥムは独裁官の統治権（インペリウム）を代行し、ローマを統治する役割を担いました。しかし、マギステル・エクィトゥムの権能は、コンスル（執政官）やプラエトル（法務官）よりも上位とみなされることはありませんでした。これは、独裁官がコンスルやプラエトルよりも高度な権限を持つとされていたことと対照的です。

初期の頃は、プラエトル経験者がマギステル・エクィトゥムに就任する資格があるとされていましたが、この規則は早い段階で廃止されました。マギステル・エクィトゥムの職が空席となった場合、その補充が必要とされ、新たなマギステル・エクィトゥムが指名されました。

騎兵長官という訳語の由来

マギステル・エクィトゥムが日本語で「騎兵長官」と訳されることが多いのは、その職務が独裁官が歩兵を指揮するのに対し、騎兵の指揮を担当したことに由来します。独裁官が任命される原因となった戦争において、騎兵部隊は重要な役割を担っており、その指揮官としてマギステル・エクィトゥムは重要な存在でした。

独裁官制度の廃止とマギステル・エクィトゥムの消滅

独裁官制度は、マルクス・アントニウスの提議によって廃止されました。アントニウスを破り、ローマの支配権を握ったアウグストゥスも、独裁官に就任することを拒否しました。これに伴い、独裁官の補佐官としてのマギステル・エクィトゥムの職も消滅しました。これにより、共和政ローマにおけるこの重要な役職は、歴史の中にその名を残すこととなりました。

マギステル・エクィトゥムは、共和政ローマの政治制度において重要な役割を担った公職であり、その存在は当時の政治体制や軍事戦略を理解する上で欠かせない要素です。独裁官の補佐役として、また、時には独裁官の代理としてローマを統治したマギステル・エクィトゥムの歴史は、ローマ史を語る上で興味深い一側面となっています。

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