マクドナルド・アンド・ジャイルズ
プログレッシブ・ロック史に輝くキング・クリムゾンのデビュー作『クリムゾン・キングの宮殿』。その制作に関わったオリジナル・メンバーのうち、マルチプレイヤーのイアン・マクドナルドとドラマーのマイケル・ジャイルズは、アルバム発表後の過酷な米国ツアーを終えた後、バンドを離れる決断をしました。
彼らがクリムゾン脱退後に共同で制作し、1971年に発表したのが、二人の名を冠したアルバム『マクドナルド・アンド・ジャイルズ』です。このアルバムは商業的には大きな成功を収めることはありませんでしたが、キング・クリムゾンを愛聴するファンの間では、現在に至るまで根強い支持と高い評価を得続けています。
本作のレコーディングは、クリムゾン脱退後の1970年5月から7月にかけて、ロンドンのアイランド・スタジオで行われました。この制作過程には、マイケル・ジャイルズの実弟でありベーシストのピーター・ジャイルズが全面的に参加し、厚みのある演奏を提供しています。
アルバムに収められた楽曲の数々は、キング・クリムゾンの初期作品にも共通する、牧歌的で繊細なメロディラインや、時に複雑に入り組むアレンジといった要素を多分に含んでいます。しかし、クリムゾン作品が持つような暗さや重苦しさは意図的に避けられ、より明るく、開放的な雰囲気や、楽曲によってはユーモラスな一面も垣間見えるのが特徴です。
また、本作には豪華なゲストミュージシャンも参加しています。同時期に同じアイランド・スタジオで活動していたトラフィックのメンバー、スティーヴ・ウィンウッドが、「組曲ハ長調」の一部である「Turnham Green」にオルガンとピアノで客演し、その卓越したプレイで楽曲に彩りを添えています。
収録曲には興味深いエピソードを持つものがあります。「アイビスの飛行」は、イアン・マクドナルドがキング・クリムゾン在籍時に、バンドの作詞家であったピート・シンフィールドと共作した未発表曲「ケイデンスとカスケイド」のメロディを基に、BP・ファロンが新たな歌詞を付けたものです。
マイケル・ジャイルズが作曲した「明日への脈動」には、ジャイルズ兄弟が若き日に所属したバンド「トレンドセッターズ・リミテッド」の旧友であるマイケル・ブレイクスリーがトロンボーンで参加しています。この曲のドラム・ソロは、後にアメリカのヒップホップグループ、ビースティ・ボーイズが彼らのアルバム『ハロー・ナスティ』収録曲「Body Movin'」でサンプリングしたことでも知られています。
そして、アルバムのハイライトと言えるのが、20分を超える大作「バードマン」組曲です。この曲は、キング・クリムゾン結成以前の1968年頃、イアン・マクドナルドとピート・シンフィールドが共に作曲活動を行っていた時期に、既に着想され、書き始められていた楽曲が発展したものです。
オリジナル盤は、英国ではアイランド・レコードから、米国ではアトランティック・レコード傘下のコティリオン・レコードからリリースされました。英国盤と米国盤では、ジャケットにあしらわれた「McDonald and Giles」のロゴの色が異なっていたことも、コレクターの間で話題になることがあります。
CD化の歴史も紆余曲折を経てきました。最初のCDは1989年に日本で発売されましたが、オリジナルのマスターテープの所在が不明だったため、数世代後のテープから作成された、いわゆる「盤起こし」音源が使用されました。この時のジャケットはアメリカ盤のデザインが採用されています。
2002年には、2001年にリマスターされた音源を用いた、より音質の改善されたCDが発売されました。このリマスター盤は、イアン・マクドナルド自身の監修によって、オリジナル発表当時に彼が感じていた「不完全さ」を修正する形で再構築が行われています。例えば、「組曲ハ長調」の冒頭部分では歌詞がわずかに変更され、「バードマン」組曲は以前とは異なるセクションで区切られ、複数のトラックに分けられました。こちらのCDでは、イギリス盤の緑色のロゴが再現されています。
さらに後の展開として、アルバムのアナログ・マスターテープが、かつての制作委託先であったEGレコードの管理会社に保管されていることが判明しました。2020年代に本作のリリース権を取得した独立レーベル、ディシプリン・グローバル・モービル（DGM）は、オリジナルマスターを用いた音源での再発を目指し、マスターテープの引き渡しを繰り返し要求しましたが、旧EGレコードの管理会社は発売当時のアイランド・レコードとの契約条項を理由にこれを拒否。結果として、2021年末から2022年初頭にかけてリリースされた50周年記念再発盤も、オリジナルのマスター音源ではなく、2001年リマスター音源を流用せざるを得ませんでした。
DGMはその後もマスターテープを用いたミックス盤の実現に向けて交渉を続ける意向を示していましたが、2022年2月にイアン・マクドナルドが逝去。これにより、制作者本人による最終的な許諾や監修作業が不可能となり、ファンが長年待ち望むオリジナルマスターテープ音源での決定盤の実現は、現状では極めて不透明な状況となっています。
主な参加ミュージシャン：
イアン・マクドナルド (Ian McDonald) - ギター、ピアノ、オルガン、サックス、フルート、クラリネット、ツィター、ボーカルなど
マイケル・ジャイルズ (Michael Giles) - ドラム、パーカッション、ボーカル
ピーター・ジャイルズ (Peter Giles) - ベース
スティーヴ・ウィンウッド (Steve Winwood) - オルガン、ピアノ
* マイケル・ブレイクスリー (Michael Blakesley) - トロンボーン
彼らがクリムゾン脱退後に共同で制作し、1971年に発表したのが、二人の名を冠したアルバム『マクドナルド・アンド・ジャイルズ』です。このアルバムは商業的には大きな成功を収めることはありませんでしたが、キング・クリムゾンを愛聴するファンの間では、現在に至るまで根強い支持と高い評価を得続けています。
本作のレコーディングは、クリムゾン脱退後の1970年5月から7月にかけて、ロンドンのアイランド・スタジオで行われました。この制作過程には、マイケル・ジャイルズの実弟でありベーシストのピーター・ジャイルズが全面的に参加し、厚みのある演奏を提供しています。
アルバムに収められた楽曲の数々は、キング・クリムゾンの初期作品にも共通する、牧歌的で繊細なメロディラインや、時に複雑に入り組むアレンジといった要素を多分に含んでいます。しかし、クリムゾン作品が持つような暗さや重苦しさは意図的に避けられ、より明るく、開放的な雰囲気や、楽曲によってはユーモラスな一面も垣間見えるのが特徴です。
また、本作には豪華なゲストミュージシャンも参加しています。同時期に同じアイランド・スタジオで活動していたトラフィックのメンバー、スティーヴ・ウィンウッドが、「組曲ハ長調」の一部である「Turnham Green」にオルガンとピアノで客演し、その卓越したプレイで楽曲に彩りを添えています。
収録曲には興味深いエピソードを持つものがあります。「アイビスの飛行」は、イアン・マクドナルドがキング・クリムゾン在籍時に、バンドの作詞家であったピート・シンフィールドと共作した未発表曲「ケイデンスとカスケイド」のメロディを基に、BP・ファロンが新たな歌詞を付けたものです。
マイケル・ジャイルズが作曲した「明日への脈動」には、ジャイルズ兄弟が若き日に所属したバンド「トレンドセッターズ・リミテッド」の旧友であるマイケル・ブレイクスリーがトロンボーンで参加しています。この曲のドラム・ソロは、後にアメリカのヒップホップグループ、ビースティ・ボーイズが彼らのアルバム『ハロー・ナスティ』収録曲「Body Movin'」でサンプリングしたことでも知られています。
そして、アルバムのハイライトと言えるのが、20分を超える大作「バードマン」組曲です。この曲は、キング・クリムゾン結成以前の1968年頃、イアン・マクドナルドとピート・シンフィールドが共に作曲活動を行っていた時期に、既に着想され、書き始められていた楽曲が発展したものです。
オリジナル盤は、英国ではアイランド・レコードから、米国ではアトランティック・レコード傘下のコティリオン・レコードからリリースされました。英国盤と米国盤では、ジャケットにあしらわれた「McDonald and Giles」のロゴの色が異なっていたことも、コレクターの間で話題になることがあります。
CD化の歴史も紆余曲折を経てきました。最初のCDは1989年に日本で発売されましたが、オリジナルのマスターテープの所在が不明だったため、数世代後のテープから作成された、いわゆる「盤起こし」音源が使用されました。この時のジャケットはアメリカ盤のデザインが採用されています。
2002年には、2001年にリマスターされた音源を用いた、より音質の改善されたCDが発売されました。このリマスター盤は、イアン・マクドナルド自身の監修によって、オリジナル発表当時に彼が感じていた「不完全さ」を修正する形で再構築が行われています。例えば、「組曲ハ長調」の冒頭部分では歌詞がわずかに変更され、「バードマン」組曲は以前とは異なるセクションで区切られ、複数のトラックに分けられました。こちらのCDでは、イギリス盤の緑色のロゴが再現されています。
さらに後の展開として、アルバムのアナログ・マスターテープが、かつての制作委託先であったEGレコードの管理会社に保管されていることが判明しました。2020年代に本作のリリース権を取得した独立レーベル、ディシプリン・グローバル・モービル（DGM）は、オリジナルマスターを用いた音源での再発を目指し、マスターテープの引き渡しを繰り返し要求しましたが、旧EGレコードの管理会社は発売当時のアイランド・レコードとの契約条項を理由にこれを拒否。結果として、2021年末から2022年初頭にかけてリリースされた50周年記念再発盤も、オリジナルのマスター音源ではなく、2001年リマスター音源を流用せざるを得ませんでした。
DGMはその後もマスターテープを用いたミックス盤の実現に向けて交渉を続ける意向を示していましたが、2022年2月にイアン・マクドナルドが逝去。これにより、制作者本人による最終的な許諾や監修作業が不可能となり、ファンが長年待ち望むオリジナルマスターテープ音源での決定盤の実現は、現状では極めて不透明な状況となっています。
主な参加ミュージシャン：
イアン・マクドナルド (Ian McDonald) - ギター、ピアノ、オルガン、サックス、フルート、クラリネット、ツィター、ボーカルなど
マイケル・ジャイルズ (Michael Giles) - ドラム、パーカッション、ボーカル
ピーター・ジャイルズ (Peter Giles) - ベース
スティーヴ・ウィンウッド (Steve Winwood) - オルガン、ピアノ
* マイケル・ブレイクスリー (Michael Blakesley) - トロンボーン
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