マグダレーナ・アバカノヴィッチ

マグダレーナ・アバカノヴィッチ（Marta Magdalena Abakanowicz-Kosmowska、1930年6月20日 - 2017年4月20日）は、ポーランドを代表する彫刻家、ファイバー・アーティスト、そして画家です。国際的に高い評価を受けている彼女は、その革新的な作品を通して、20世紀後半の美術界に大きな影響を与えました。

生い立ちと初期の芸術活動

アバカノヴィッチは、ポーランドの地主の家に生まれ、母親は貴族の血筋、父親はリプカ・タタール人という複雑なルーツを持ちます。彼女の先祖は13世紀のモンゴル帝国のアバカまで遡るとされています。ロシア革命後、家族はポーランド第二共和国に移住しました。

9歳の時、第二次世界大戦が勃発し、家族は戦火を逃れながらも生活を続けました。戦後、彼女は教育を受け、美術の道に進むことを決意します。しかし、当時のポーランドは社会主義体制下にあり、芸術表現には厳しい制約が課せられていました。

1947年に中学校を卒業後、グディニャの高校で絵画を学び、その後、ソポトとワルシャワの美術アカデミーで研鑽を積みました。しかし、貴族出身であることが入学の妨げとなったため、身分を偽る必要がありました。アカデミーでは、社会主義リアリズムが推奨され、モダニズムなどの西側の芸術は禁止されていました。この状況にアバカノヴィッチは強い違和感を覚え、アカデミーの保守的な雰囲気に不満を感じていました。アカデミーではテキスタイルのデザインも学び、機織りやシルクスクリーン、織物デザインの技術を習得しました。

1955年にアカデミーを卒業し、本格的な創作活動を開始しましたが、住居を転々としたため、初期の作品の多くは失われ、わずかに植物の素描が残るのみです。

芸術的転換と国際的な評価

1953年にスターリンが死去し、ポーランドでは政治的圧力が弱まり始めました。1956年にはヴワディスワフ・ゴムウカが政権を握り、社会や文化に大きな変化が訪れ、芸術分野でも自由化の波が押し寄せました。アバカノヴィッチは1956年から1959年にかけて、想像上の植物や動物を組み合わせた「biomorphic」シリーズを制作しました。これらの作品は、ガッシュと水彩を用いて大きな紙やリネンに描かれました。

しかし、西欧の芸術に触れるにつれて、彼女は自身の絵画に物足りなさを感じるようになり、ロシア構成主義を学びながらも、独自の芸術言語を模索するようになりました。その結果、彼女はテキスタイル、特に織物という表現手段に着目します。

1960年にワルシャワで開催された初の個展では、ガッシュ画や水彩画に加え、4つの織物作品を発表しました。この個展はさほど注目されなかったものの、彼女の地位は高まり、1962年にはローザンヌ・ビエンナーレに参加し、国際的な成功への足がかりとなりました。1965年にはサンパウロ・ビエンナーレでグランプリを受賞し、その後の活動を大きく飛躍させました。

代表的な作品と作風

アバカノヴィッチの作品は、ファイバーアート、彫刻、絵画と多岐にわたりますが、特に「アバカン」と呼ばれる巨大な三次元ファイバー・アートのシリーズが有名です。「アバカン」は、サイザル麻やロープなどの素材を用い、高さ13フィートに達することもあり、空間を大きく変容させる力を持っています。これらの作品は、彼女の芸術家としての地位を確立しました。

また、彼女は人体をモチーフにした彫刻作品も多数制作しており、「頭」、「背中」、「群衆」などのシリーズがあります。これらの作品は、ファイバーだけでなく、ブロンズ、石、粘土などの素材も使用されています。彼女の人体彫刻は、人間の存在や集団における個人の意味を問いかけるような、強烈な印象を与える作品です。

さらに、「戦争ゲーム」というシリーズでは、古い木の幹に布を巻いたり、鉄の輪をかぶせたりして、戦争や暴力のイメージを表現しました。

受賞歴と晩年

アバカノヴィッチは、1965年のサンパウロ・ビエンナーレでのグランプリ受賞をはじめ、数多くの賞を受賞しました。1965年から1990年までポズナン芸術大学の教授を務め、1984年にはカリフォルニア大学ロサンゼルス校の客員教授にも就任しました。

彼女の作品は、世界各地の美術館に収蔵されており、その功績は国際的に高く評価されています。2017年、彼女は86歳でその生涯を閉じましたが、その作品は今もなお多くの人々に感動を与え続けています。

結論

マグダレーナ・アバカノヴィッチは、その生涯を通じて、独自の芸術表現を追求し続けました。社会主義リアリズムの制約から解放され、自由な発想で制作された作品は、見る者に深い感動と問いを与えます。彼女の作品は、現代美術における重要な遺産として、今後も長く語り継がれていくことでしょう。

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