マシコ・ピロ族

マシコ・ピロ族：アマゾンの奥地に生きる謎多き先住民族

マシコ・ピロ族（Mashco-Piro）は、ペルー南東部のマードレ・デ・ディオス県にあるマヌー国立公園周辺のジャングル奥地に暮らすとされています。彼らはクハレーニョ（Cujareño）とも呼ばれ、アマゾン川流域で古くから狩猟採集生活を送る先住民族です。数千年にわたり外部との接触をほとんど絶っていたため、その実態は長く謎に包まれていました。

隔絶された生活と外部との接触

太古の昔からアマゾン川流域で生活してきたマシコ・ピロ族は、かつては近隣の多民族との交流もあったと考えられています。しかし、その後数千年もの間、外部との接触を断ち、森の奥深くに隠れ住むようになりました。1980年代に入り、アマゾン川の支流を航行する人々が、川岸付近に姿を現すマシコ・ピロ族を目撃するようになり、その存在が改めて認識されるようになりました。

当初、マシコ・ピロ族は付近を通る船を襲撃し、農作物を奪ったり、対岸の村を襲撃して略奪したりするなど、外部に対して警戒的な態度を示していました。しかし、次第に外部からの接触に友好的に応じるようになり、現代社会との関わりも少しずつ生まれています。

名称の由来と他の先住民族との関係

「マシコ・ピロ」という名前は、1687年に宣教師が近隣のハラカムブット族に言及した際、ピロ語で「野蛮人」を意味する蔑称である"Mashchcos"を用いたことが始まりとされています。マシコ・ピロ族自身はこの呼称を好まず、外部の人々が便宜的に付けた名称であることを理解しています。

アマゾン川流域には、マシコ・ピロ族以外にも多くの先住民族が存在し、ブラジル国内ではこれらの未接触部族を「イゾラド（Indios Isolados）」と総称しています。これは特定の部族名ではなく、文明社会との接触が少ない、あるいは全くない先住民族を指す言葉です。

言語と文化

マシコ・ピロ族は、アラワク語族の一派であるピロ語の方言、マシコ・ピロ語を話します。流域に住むイネ（Yine）族など、他の部族とも共通の言語や民族性を持ち、イネ族との間では、8割ほどの単語が共通しているとされています。しかし、一部はイネ族の長老に翻訳してもらう必要があるなど、異なる部分も存在しています。

マシコ・ピロ族には独自の掟があり、他の部族から女性や子供を拉致しているのではないかという推測もされていますが、その詳細は不明です。彼らの文化や生活様式は、今も多くの謎に包まれています。

人口と来歴

マシコ・ピロ族の正確な人口は不明ですが、1998年の調査では100人から250人程度と推定されていました。現在では、300人、あるいは600人から800人とする情報もあり、正確な人数を把握することは困難です。

19世紀のゴム・ブームの際、南米では大規模な開拓が進められ、先住民族は土地を追われ、入植者に奴隷として搾取されるようになりました。1894年には、マヌー川流域のマシコ・ピロ族が、ゴム園開発で巨利を得たカルロス・フィッツカラルド率いる私兵集団によって制圧され、生き残った人々はジャングル奥地に撤退しました。

1976年、マシコ・ピロ族と対岸の住民との間で武力衝突が発生し、逃げ遅れた少年が近隣の集落に迎え入れられます。その後、少年は元の集落に帰ることも許されましたが、同化する道を選びました。

1980年代中盤には、伐採業者がマホガニーなどの木材を求めて進出したことで、マシコ・ピロ族との衝突が発生するようになります。21世紀に入ると、マシコ・ピロ族の目撃情報が増加し、低空飛行する航空機や違法伐採などがその要因ではないかと考えられています。

近年の動向と保護の取り組み

2007年、環境学者のチームが、ペルー・ブラジル国境付近でマシコ・ピロ族を上空から撮影することに成功しました。彼らは乾季には川辺に小屋を建てて漁業を行い、雨季には熱帯雨林に戻って生活していることが確認されています。2012年には、マシコ・ピロ族の写真が公開されましたが、後に盗用であることが判明し、問題となりました。

近年、マシコ・ピロ族が食料を求めて近隣の村に出没するようになり、ペルー政府はマドレ・デ・ディオス川を見渡せる高台に監視小屋を設置し、自然保護官を常駐させています。また、集落には無線機を貸与し、パトロールを行うなど、マシコ・ピロ族との接触を試みています。

マシコ・ピロ族を題材とした作品

NHKが製作したDVD『イゾラド ～森の果て 未知の人々～』では、マシコ・ピロ族を含む未接触部族の生活を垣間見ることができます。

結論

マシコ・ピロ族は、アマゾンの奥地にひっそりと暮らす、謎多き先住民族です。長年、外部との接触を避け、独自の文化を守り続けてきましたが、近年、その存在が少しずつ明らかになりつつあります。彼らの保護と文化の尊重は、現代社会における重要な課題の一つと言えるでしょう。

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