マジック・アンド・ロス

ルー・リード 『マジック・アンド・ロス』（Magic and Loss）

1992年にリリースされたルー・リードのアルバム『マジック・アンド・ロス』は、彼のディスコグラフィの中でも特にパーソナルで感動的な作品として位置づけられています。このアルバムの制作は、リードが長年の友人であった作詞家のドク・ポーマスと、プライベートでも親交の深かったリタという人物を、いずれも癌で失ったという悲劇的な出来事に深く根差しています。愛する人との別れ、そして人間にとって避けて通れない死というテーマに、リードは真正面から向き合い、その感情と哲学を音楽として昇華させました。

アルバムは全部で14曲で構成されており、それぞれの楽曲タイトルには、その内容やアルバム全体の物語における位置づけを示す副題が付けられています。例えば、「ドリタ - 精神」「ホワッツ・グッド - 主題」「パワー・アンド・グローリー - 状況」といった副題は、まるで死を受け入れ、喪失を乗り越え、そして再生へと向かう一連の感情や思考の旅路を示しているかのようです。アルバム全体の構成もまた、この副題によって示唆される流れに沿って展開されているかのようにも受け取れます。オープニングの「ドリタ - 精神」は静かで瞑想的なインストゥルメンタル曲であり、聴く者をアルバムの世界観へと誘います。収録されている楽曲の多くはルー・リード自身によって作詞・作曲されていますが、「パワー・アンド・グローリー」「ドリーミン」など、一部の重要な楽曲では、ギタリストであるマイク・ラスクとの共作となっています。

音楽的には、過度な装飾を排したシンプルながらも深みのあるサウンドが特徴です。抑制された演奏と、リードの語りかけるような、時には感情をむき出しにするボーカルが、重いテーマである死と喪失の感情をリアルに伝えます。アコースティックな響きとエレキギターの繊細なトーンが交錯し、聴く者の心に静かに、しかし確実に響く音楽が展開されています。

本作は商業的にも大きな成功を収めました。特にイギリスにおいては、1973年に発表したコンセプト・アルバム『ベルリン』以来、約18年ぶりに全英アルバムチャートでトップ10入りを果たすという快挙を達成しました。これは、ベテランとなったルー・リードが依然として音楽シーンにおいて重要な存在であることを示す出来事でした。また、アルバムに先駆けてヴィム・ヴェンダース監督の映画『夢の涯てまでも』のサウンドトラックに提供された楽曲「ホワッツ・グッド - 主題」は、彼の母国であるアメリカにおいて、『ビルボード』誌のモダン・ロック・チャートで第1位を記録するなど、高い評価と広く聴かれるきっかけとなりました。

『マジック・アンド・ロス』のレコーディングには、ルー・リード（ボーカル、ギター）のほか、マイク・ラスク（ギター）、ロブ・ワッサーマン（6弦エレクトリック・アップライト・ベース）、マイケル・ブレア（ドラムス、パーカッション、バッキング・ボーカル）といった実力派ミュージシャンが参加しています。特にロブ・ワッサーマンのエレクトリック・アップライト・ベースによる独特の響きや、マイケル・ブレアの多様なパーカッションは、アルバム全体のサウンドに深みとテクスチャーを与えています。また、「ホワッツ・グッド - 主題」にはロジャー・モテノが、「パワー・アンド・グローリー - 状況」にはリトル・ジミー・スコットがそれぞれバッキング・ボーカルとして参加し、楽曲に情感を加えています。

『マジック・アンド・ロス』は、個人的な悲しみを普遍的な芸術へと昇華させた、ルー・リードの円熟期を代表する傑作であり、死と向き合った人間の内面を深く掘り下げた作品として、今なお多くのリスナーに影響を与え続けています。

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