ドク・ポーマス

本名をジェローム・ソロン・フェルダー（Jerome Solon Felder）というドク・ポーマスは、1925年6月27日に生まれ、1991年3月14日に65歳でその生涯を閉じました。アメリカ合衆国を代表するブルース歌手であると同時に、ロックンロール黄金期を支えた最も影響力のあるソングライターの一人として知られています。数々のアーティストに提供した楽曲は、今なお世界中で愛され続けています。

生い立ちとブルースとの出会い

ユダヤ系移民の子としてニューヨークのブルックリンで育ったポーマスは、幼い頃にポリオを患い、その後の人生を松葉杖、そして最終的には車椅子と共に過ごすことになりました。身体的な困難を抱える中、彼はビッグ・ジョー・ターナーのレコードを通してブルース音楽に深く傾倒していきます。この音楽への情熱が、彼のその後のキャリアの基盤となりました。

歌手活動

10代にしてブルース歌手として活動を開始した彼は、「ドク・ポーマス」という芸名を直感で名付けました。身体的なハンデは、彼が歌うブルースに独特の深みを与え、特に黒人聴衆との間に共感を生み出す一因となりました。ニューヨークのクラブシーンで腕を磨き、ミルト・ジャクソンやキング・カーティスといった名だたるミュージシャンたちとも共演を果たしました。1940年代から1950年代にかけて、ChessやApolloといったレーベルから20枚以上のシングルを含む、約40曲のレコーディングを残しています。

ソングライターへの転身と成功

1950年代にブロードウェイ女優と結婚し家庭を持ったポーマスは、家族を養うため、ブルース歌手としての活動に加え、雑誌記事の執筆や歌詞の提供を行うようになります。ソングライターとしてのキャリアにおける転機は、ハネムーン中の出来事でした。ジュークボックスから流れるザ・コースターズのヒット曲「ヤング・ブラッド」が自身のペンによるものであることを知り、間もなく届いた1500ドルという当時としては高額な印税小切手を受け取ったことが、彼を作詞の世界へと本格的に誘うきっかけとなりました。

1957年までにはソングライターを専業とするようになったポーマスは、ピアノ奏者モルト・シューマンとコンビを組むことになります。当時のロックンロールの知識が乏しかった彼は、流行に精通したシューマンを共同作業者に選び、ニューヨークのブリル・ビルディングを拠点とするHill & Range Music Co. / Rumbalero Musicで数々の名曲を生み出しました。彼らの共作は、「恋のティーンエイジャー (A Teenager in Love)」、「ラストダンスは私に (Save The Last Dance For Me)」、「ハッシャバイ (Hushabye)」、「ディス・マジック・モーメント (This Magic Moment)」、「ターン・ミー・ルース (Turn Me Loose)」、「スウィーツ・フォー・マイ・スウィート (Sweets for My Sweet)」など、ポップス史に残るヒットとなりました。また、エルヴィス・プレスリーにも「ラスベガス万才 (Viva Las Vegas)」、「リトル・シスター (Little Sister)」、「サレンダー (Surrender)」、「マリーは恋人 (Marie's the Name) 」といった多くの楽曲を提供し、その成功に大きく貢献しました。

他にも、1960年代初頭にはフィル・スペクターと「ヤング・ボーイ・ブルース (Young Boy Blues)」などを、リーバー＝ストーラーとはエルヴィスの「シーズ・ノット・ユー (She's Not You)」を共作しています。1956年にはレイ・チャールズに「ロンリー・アベニュー (Lonely Avenue)」を提供しました。1970年代に入ると、ドクター・ジョンやウィリー・デヴィルらとも組み、この時期に生まれた「ゼア・マスト・ビー・ア・ベター・ワールド (There Must Be A Better World)」といった楽曲は、B.B.キングやアーマ・トーマス、マリアンヌ・フェイスフルなど多くの著名アーティストによって録音され、彼の後期の代表作とされています。

晩年と遺産

ドク・ポーマスは1991年、肺がんのため65歳で死去しました。その功績は高く評価され、死後すぐに1992年にはロックの殿堂とソングライターの殿堂入りを果たし、2012年にはブルースの殿堂入りも果たしています。

彼の遺した音楽は、後世のアーティストにも多大な影響を与えています。ファンクバンドのキャメオはライブで彼の名前を引用し、ルー・リードは彼を音楽業界に紹介した恩人として、自身のアルバムでポーマスに触れています。1995年には、ボブ・ディラン、ブライアン・ウィルソン、B.B.キング、ルー・リードといった豪華なアーティストたちが参加したトリビュートアルバム『ティル・ザ・ナイト・イズ・ゴーン (Till The Night Is Gone)』が発表されました。また、2010年にはベン・フォールズとニック・ホーンビーの共作アルバムに「ドク・ポーマス (Doc Pomus)」というタイトルの楽曲が収録され、その歌詞にはポーマス自身の言葉「僕は幸せな片輪ではなかった。人々は僕を見て『なんてステキな男だ』なんて言わなかった」が引用されています。2012年のドキュメンタリー映画『A.K.A. Doc Pomus』は、彼の波乱に満ちた人生と輝かしいキャリアを詳細に描いています。

ドク・ポーマスは、身体的な逆境を乗り越え、ブルースシンガー、そして伝説的なソングライターとして音楽史に確固たる足跡を残しました。彼の生み出した timeless な楽曲は、これからも多くの人々に聴き継がれていくでしょう。

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