マセラティ・ボーラ

マセラティ・ボーラ：イタリアが生んだ希少なV8ミッドシップスポーツカー

マセラティ・ボーラは、1971年から1978年にかけてイタリアの自動車メーカー、マセラティによって生産された、ラグジュアリーなミッドシップスポーツカーです。その名は、アルプス山脈からアドリア海に吹き降ろす冷たい局地風を意味する「ボーラ」に由来しています。

誕生の背景とデザイン

1968年、マセラティは当時親会社であったシトロエンからの提案を受け、ミッドシップレイアウト、2シーター、そしてスーパーカーというコンセプトに基づいた新型車の開発に着手しました。このプロジェクトから生まれたのが、プロトタイプ「ティーポ117」であり、それが後に「ボーラ」として世に送り出されることになります。

デザインは、マセラティ・ギブリと同じく、著名なデザイナー、ジョルジェット・ジウジアーロが担当しました。ウェッジシェイプを基本コンセプトとしつつ、ミッドシップレイアウトに合わせてノーズは短く、リアは長く伸びやかなデザインとなっています。特徴的なのは、シルバーのステンレス製ルーフパネル、高く盛り上がったリアエンド、そしてリアクウォーターまで伸びる広大なリアガラスです。これらの要素が、ボーラを他のスポーツカーとは一線を画す存在にしています。

性能とメカニズム

ボーラは、鋼管フレームによるモノコックシャシーを採用。心臓部には、ギブリから流用された4.7L V8 DOHCエンジンを搭載し、最高出力310馬力、最大トルク46.9kgmを発生しました。最高速度は280km/hに達し、当時のスーパーカーの中でもトップクラスの性能を誇っていました。また、マセラティの市販車としては初めて、四輪独立懸架方式のサスペンションを採用。さらに、シトロエンから提供された油圧ブレーキシステムも搭載され、優れた操縦性と制動力を実現しました。

当時、市販車としてミッドシップレイアウトを採用し成功を収めていたのは、マトラやロータスといった小排気量スポーツカーが中心でした。一方、イタリアのスーパーカーは、フェラーリやランボルギーニがV12エンジンを搭載したモデルを主力とするなど、パワー競争が激化していました。そんな中、ボーラはV8エンジンを搭載したラグジュアリーなミッドシップ2シーターという、他に類を見ない独自のポジションを確立したのです。

アメリカ市場への対応とマイナーチェンジ

1973年には、アメリカの排気ガス規制強化に対応するため、4.9Lエンジンを搭載したモデルが導入されました。この変更により、最高出力は300馬力に低下しましたが、排ガス規制をクリアしました。1975年にはマイナーチェンジを行い、4.9Lエンジンの出力を320馬力に向上させるとともに、デザインにも細かな変更を加えています。

生産終了と希少性

1978年に生産が終了するまでに、ボーラはわずか530台しか生産されませんでした。この希少性も、ボーラを特別な存在たらしめている大きな要因となっています。ミッドシップレイアウト、V8エンジン、そしてラグジュアリーなデザインを兼ね備えたボーラは、イタリアンスーパーカーの歴史において、特筆すべき存在と言えるでしょう。その希少性と洗練されたデザイン、そして高い走行性能は、多くのコレクターを魅了し続けています。

関連項目

マセラティ
マセラティ・ギブリ
フォルクスワーゲン・ボーラ (「風」を意味する同じ車名を持つモデル)
スーパーカー

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