マセラティ・メラク

マセラティ・メラク：洗練されたデザインと複雑な技術の融合

マセラティ・メラクは、1972年から1982年にかけてイタリアの自動車メーカー、マセラティによって生産された2+2シーターの高級スポーツカーです。マセラティ・ボーラの弟分として位置づけられ、そのスタイリッシュなデザインと革新的な技術、そして複雑な油圧システムによって、多くの自動車愛好家から高く評価されています。

継承と革新のデザイン

ジウジアーロによるデザインは、兄貴分であるボーラを踏襲しつつも、独自の個性を持っています。メラクはボーラと多くのボディパネルを共有しながらも、独特のノッチバックスタイルを採用。当時流行していたファストバックスタイルではミッドシップエンジンの冷却に問題があったため、エンジンフードを露出させることで冷却効率を高める工夫が凝らされています。リアピラーを模した飛梁（フライング・バットレス）は、ファストバックスタイルを思わせるシルエットと、実用性とを両立した優れたデザインです。このデザインは、マセラティ・ギブリと並び、同社の代表的なスタイリングとして高く評価されています。

4人乗りミッドシップレイアウトと複雑な油圧システム

2シーターのボーラと異なり、メラクは2+2シーターのレイアウトを採用していますが、後部座席は非常に狭く、緊急用としてしか使用できない程度です。エンジンは、マセラティがシトロエン・SMに供給していた3.0L DOHC V6エンジンを搭載。ミッドシップに配置されたこのエンジンは、最高出力190馬力を発揮し、最高速度245km/hに達しました。

しかし、メラクには大きな欠点がありました。それはシトロエン独自の油圧システムである「ハイドロニューマチック」を採用していたことです。このシステムは、ブレーキやヘッドライト、サスペンションの動作を制御していましたが、非常に複雑で、高い油圧を維持するために多くのエネルギーを消費し、エンジンのパワーロスにつながっていました。また、配管の継ぎ目も多く、オイル漏れも頻発しました。これらの問題により、メラクの信頼性は当時のスポーツカーとしては低いものでした。

バリエーションモデルと生産終了

1975年には、パワーアップしたメラクSSが登場しました。シトロエンとの関係解消に伴い、部品の共用は廃止され、エンジンは3.0L V6のまま圧縮比を上げるなどの改良が施され、最高出力は220馬力に向上しました。

1976年には、デ・トマソ傘下となったマセラティは、イタリア国内の税制優遇措置を活かし、排気量が2.0LのV6エンジンを搭載したメラク2000GTを発表しました。このモデルは、最高出力170馬力、最高速度220km/hを誇っていました。

1983年、メラクの生産は終了しました。総生産台数は約1,830台で、マセラティとしてはA6、ビトゥルボに次ぐロングセラーモデルとなりました。

まとめ

マセラティ・メラクは、美しいデザインと革新的な技術を採用した一方で、信頼性の低い油圧システムという大きな欠点も抱えていました。しかし、その独特のスタイルと、マセラティの歴史における重要な位置づけは、多くの自動車愛好家の記憶に深く刻まれています。メラクは、成功と失敗が複雑に絡み合った、興味深い歴史を持つ一台と言えるでしょう。

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