フライング・バットレス

フライング・バットレス：ゴシック建築の革新的技術

フライング・バットレスは、ゴシック建築において、高い天井と大きな窓を実現するために用いられた画期的な建築技術です。その名の通り、「空中に飛ぶ支え」というイメージの通り、アーチ状の構造物を外壁から離して空中に架け、建物の外壁を支える仕組みとなっています。

歴史と構造

従来の建築様式では、建物の重みを直接壁で支えるため、天井の高さを高くするには壁を厚くする必要がありました。しかし、フライング・バットレスの導入により、この制約が大きく克服されました。

フライング・バットレスは、まず壁面から突き出した柱状の支え（バットレス）から、アーチ状の構造物を側廊の屋根よりも高い位置に架けます。このアーチは、建物の内側のヴォールト（アーチ状の天井）からの推力を、効率的に地面へと伝達する役割を担っています。

この技術は、ロマネスク様式で用いられていたアーチ構造を発展させたもので、12世紀以降のゴシック建築でその真価を発揮しました。フライング・バットレスによって、建物の外壁を薄くすることが可能になり、それまで不可能だった高さの天井と、大きな窓の設置が可能となりました。その結果、ゴシック建築特有の、明るく壮大な空間が実現しました。

特に、ゴシック建築初期の代表的な特徴である強弱交互組織の柱、六分のリブ・ヴォールト、4層構成と組み合わせることで、その効果は最大限に発揮されました。

ゴシック建築への貢献

フライング・バットレスの採用は、ゴシック建築の発展に計り知れない貢献をしました。

高い天井の構築: それまでの建築様式では実現不可能だった高さの天井を実現し、より荘厳で広々とした礼拝空間を創出しました。
大きな窓の設置: 厚い壁が不要になったことで、大きな窓を設けることが可能になり、ステンドグラスによる美しい光と色の演出が可能となりました。光と色の饗宴は、人々の信仰心を高めるのに大きく貢献しました。
空間デザインの自由度向上: 壁の厚さに制約されることなく、より自由な空間デザインが可能となり、複雑で多様な内部構造を持つゴシック建築が実現しました。

自動車デザインへの応用

フライング・バットレスという名称は、建築分野以外でも使用されています。自動車デザインにおいては、以下の様な意味合いで使われています。

インテリアデザイン: 車両のセンタークラスターとセンターコンソールを繋ぐデザイン要素として用いられることがあります。
エクステリアデザイン: ミッドシップクーペにおいて、エンジンフード上部をボディやガラスで覆わず、フライング・バットレスを用いてファストバック風、あるいはコーダトロンカ風のスタイリッシュなラインを形成するデザインがあります。マセラティ・メラクがその代表例です。
空力デバイス: リアクォーターピラーに設けられたフライング・バットレスが、サイドからの風を車体後部に導き、ダウンフォースを発生させる空力デバイスとしての役割を果たす場合もあります。フェラーリ・599GTBフィオラノやマクラーレン・570Sなどに見られます。

このように、フライング・バットレスは建築のみならず、自動車デザインにおいても、その構造美と機能性を生かしたデザイン要素として用いられています。その歴史と技術的革新は、現代においても様々な分野で影響を与え続けています。

まとめ

フライング・バットレスは、ゴシック建築の象徴的な技術であり、建築史において重要な役割を果たしました。その革新的な構造は、教会建築の空間デザインに革命をもたらし、壮麗なゴシック建築の誕生に大きく貢献しました。さらに、そのデザイン性は、現代の自動車デザインにも応用され、その魅力は時代を超えて受け継がれています。

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