マタイによる福音書

『マタイによる福音書』

『マタイによる福音書』は新約聖書に収められる四つの福音書の一つです。伝統的にこの書は新約の最初に配置されており、その後に『マルコ』『ルカ』『ヨハネ』の順に続きます。その性質上、「マタイの福音書」や「マタイ伝」としても知られ、日本のハリストス正教会では「マトフェイに因る聖福音」とも呼ばれています。

概要

この福音書の主な目的は、イエスがイスラエルの救い主であること、つまり旧約聖書の預言の成就であることを示すことにあります。『マタイによる福音書』は、旧約聖書の引用が特に多く、引用箇所は65に上ります。この引用の多くは、イエスを予告する形で用いられ、特に43箇所は人々の語りの中で言及されています。この福音書の根本にあるのは、「私は廃止するためにではなく、完成するために来た」というイエスの言葉です。また、イエスがアブラハムとダビデの子孫であることを明らかにし、キリストの身分を強く示唆する内容となっています。

書かれた背景として、特にユダヤ人クリスチャンに向けた特徴がありますが、時として反ユダヤ的な要素が見受けられ、これは後世のキリスト教徒のユダヤ人に対する理解を歪めたとの指摘もあります。イエスによるファリサイ派への批判は、その後のユダヤ教の理解に影響を及ぼしているとされています。

成立時期

『マタイによる福音書』の成立時期については多くの意見があり、一般には紀元85年前後とされていますが、正確な時期は今も論争の的です。著者の記述はないものの、伝承に基づくと、この福音書の著者は、かつて取税人だったマタイであるとされています。彼の旧約聖書に対する理解や律法に関する知識から、福音書が彼によって書かれたのではないかと考えられています。

高等批評と成立過程

現代の聖書学者の間では、高等批評と呼ばれる研究方法が普及しています。二資料説では『マタイによる福音書』は『マルコ』とイエスの言葉の記録であるQ資料から成立したとされています。一方、三資料説ではこの二つに加えて、マタイ独自の資料も存在すると論じられています。伝統的に信仰を重んじる立場の聖書学者は高等批評に対して否定的な意見が多いです。

構成と特徴

この福音書は主に五つの部分から構成されています。最初の部分ではイエスの系図や誕生の出来事が描かれ、次に公の活動や私的な活動、ユダヤにおける活動、最後にイエスの死と復活が記されています。マタイらしい特徴は、イエスが旧約を成就させる存在であることを繰り返し強調することで、彼の教えと生涯全体が預言の実現であると示しています。

また、執筆言語も興味深い点です。全てがギリシャ語で書かれているわけではなく、一部はアラム語の語彙をそのまま採用しています。このことは、書かれた当初の言語に関する多くの議論を引き起こしてきました。最終的には、マタイ福音はギリシャ語で成立したとする見解が有力視されています。

芸術的な影響

『マタイによる福音書』は、さまざまな芸術作品に影響を与えています。映画『奇跡の丘』やバッハによる『マタイ受難曲』などは、その一例です。これらの作品は、イエスの教えや生涯を描き出し、福音書からのインスピレーションを受けています。さらに、教会音楽においても重要な役割を果たしています。

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