マタギ言葉

マタギ言葉とは

マタギ言葉とは、主に狩猟を生業とする人々、マタギが使用する日本語の変種です。山言葉とも呼ばれ、その特徴としてアイヌ語の影響が指摘されています。しかし、その影響の程度や起源については様々な議論が存在します。

マタギ言葉の起源に関する議論

マタギ言葉にアイヌ語の影響が見られる理由として、以下のような二つの説が挙げられます。

1. 基層言語説: マタギの祖先がアイヌであり、その言語が基盤となってマタギ言葉が形成されたという説。
2. 後からの影響説: マタギ言葉が成立した後、アイヌ語からの影響が強まったとする説。

江戸時代の紀行家、菅江真澄は、マタギ言葉の中に「セタ（犬）」「ワッカ（水）」「ポロ（大きい）」などアイヌ語に由来する単語が多く含まれていると記録しています。一方で、言語学者の山田秀三は、マタギ言葉の大部分は日本語を変化させたものであり、アイヌ語に由来する単語は一部に過ぎないと指摘しています。

民俗学者の柳田國男は、マタギが地域住民から異質な存在として認識されていたことを指摘しつつも、彼らがアイヌの血筋であると断定することは早計だと述べています。マタギは、地域住民と交流を持ち、農業や狩猟を通じて生活を共有していたため、言語や習慣において明確な差異は見られなかったとしています。

アイヌ語との関連性

金田一京助は、北海道の漁場で働く和人がアイヌとの交流を通じてアイヌ語を取り入れた現象と、マタギ言葉にアイヌ語が混じる現象は類似していると指摘しました。瀬川拓郎は、商業的狩猟を生業としていたマタギの祖先が、アイヌから狩猟技術や皮革加工技術を学び、共に活動していた可能性を示唆しています。

知里真志保は、マタギ言葉にサハリン方言のアイヌ語の影響が見られると指摘しています。瀬川拓郎は、サハリンアイヌが古い時代のアイヌ語を保持していることを踏まえ、マタギとアイヌの交流が古くから存在した可能性を示唆しています。もし、マタギ言葉に取り入れられたアイヌ語が古墳時代のものであるならば、その中に古代アイヌ語の特徴が見られてもおかしくないでしょう。

マタギ言葉の多様性

マタギ言葉は、地域によって異なる言葉が存在します。これは、マタギの生活圏が広範囲に及ぶため、地域ごとの独自性が反映された結果だと考えられます。

2008年には、板橋義三によって『マタギ語辞典』が出版され、マタギ言葉の研究に貢献しています。

マタギ言葉の例

以下にマタギ言葉の例を挙げます。

あおけら - カモシカ
いたず - 熊
うじ - けもの道
おきゃく - 狼
きよわか - 酒
くさのみ - 米
くし - 寺
けとば - 熊のいる洞穴
こしまけ - カモシカ
さんぺ - 心臓
しかり - マタギの長
すね - 猿
せこ - 獲物を追い出す係
せた - 犬
せたぎ - マタギでない人
つのから - 牛
なびれ - 熊
ひら - 斜面
ぶっぱ - 獲物を撃つ場所、および撃つ人
へだ - 犬
めぐりわっか - 濁り酒
やぢ - 湿地
わし - 表層雪崩
わっか - 水・酒


マタギ言葉は、マタギの生活や文化を理解する上で重要な要素であり、その研究は、言語学、民俗学、歴史学など、様々な分野にわたって行われています。今後、さらに研究が進むことで、マタギ言葉の謎が解き明かされることが期待されます。

参考文献

板橋義三『マタギ語辞典』現代図書、2008年2月11日。ISBN 978-4-434-11304-8。

外部リンク

マタギことば・やまことば - がりつう

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