マタ30船団

マタ30船団：太平洋戦争末期の悲劇

1944年10月、太平洋戦争末期の激戦の中、フィリピン・マニラから台湾・高雄へ向かう日本の護送船団「マタ30船団」は、アメリカ海軍の潜水艦群による待ち伏せ攻撃を受け、壊滅的な損害を被りました。この悲劇的な事件は、戦争末期の日本の窮状と、アメリカ軍の圧倒的な戦力差を浮き彫りにするものです。

背景：フィリピン反攻作戦とマニラ港の混乱

1944年10月中旬、アメリカ軍はフィリピンへの大規模反攻作戦を開始しました。レイテ島への上陸作戦を目前に控え、アメリカ第38任務部隊は、南西諸島から台湾、香港、ルソン島にかけての日本軍基地を徹底的に空襲。激しい台湾沖航空戦が勃発するなど、戦況は急速に悪化していました。

マニラ港には、増援部隊輸送を終えた空荷の船舶や、東南アジア各地から日本本土へ向かう資源輸送船などが多数停泊していました。この混乱の中、日本海軍はフィリピン周辺の船舶の緊急疎開を決定。マニラ港に停泊していた様々な船舶12隻を集め、駆逐艦「春風」を旗艦とする護送船団を編成し、高雄への緊急避難を命じました。この船団は、その年の30番目のマニラ発高雄行きの船団という意味で「マタ30船団」と命名されました。

しかし、アメリカ海軍は、日本軍の反撃や増援輸送を警戒し、フィリピン海域に多数の潜水艦を展開させていました。マタ30船団は、まさにこの潜水艦の待ち伏せ網に飛び込むことになったのです。

航海の経過とウルフパックの襲撃

10月20日、マタ30船団はマニラを出港しました。船団は、資源輸送船、空荷の輸送船、海軍艦船など、様々な種類の船舶で構成されていました。中には、民間人多数と捕虜1781人を乗せた船舶も含まれていました。護衛艦も寄せ集めの編成で、戦力としては脆弱でした。

船団は低速で航行していましたが、23日には強風が吹き荒れ、船団はばらばらになり始めました。同日午後、アメリカ潜水艦のウルフパック（複数潜水艦による連携攻撃）による攻撃が始まりました。「ソーフィッシュ」を旗艦とする7隻の潜水艦が、船団を発見すると、連携して魚雷攻撃を開始しました。

激しい攻撃により、船団は次々と沈没していきました。「君川丸」、「黒龍丸」、「菊水丸」、「天晨丸」、「信貴山丸」、「大天丸」、「第一眞盛丸」、「營口丸」、「阿里山丸」など、多くの船舶が撃沈され、多数の民間人や捕虜が犠牲となりました。

日本側の護衛艦も必死に反撃し、敵潜水艦1隻を撃沈したと報告されていますが、劣勢は覆りませんでした。

結果とその後

マタ30船団の高雄への脱出は、悲惨な失敗に終わりました。12隻の輸送船のうち、9隻が沈没し、生き残ったのは3隻のみでした。乗船者には多数の犠牲者が出、特に捕虜の生存率は極めて低かった。この事件は、戦争犯罪として日本側の責任が問われることになり、関係者への取り調べが行われました。

1944年10月は、アメリカ潜水艦の活動が最も活発だった時期であり、日本商船への被害は最大規模となりました。マタ30船団の悲劇は、太平洋戦争末期の厳しい現実を象徴する出来事であり、戦争の残酷さを改めて私たちに突きつけます。

編制

マタ30船団

輸送船:
信貴山丸、大天丸、営口丸、第一眞盛丸、阿里山丸、天晨丸、第三東洋丸、君川丸
貨客船黒龍丸、タンカー菊水丸、気象観測船凌風丸、陸軍砲艇映海丸

護衛艦:
駆逐艦：春風（旗艦）、竹、呉竹、栂（24日以降）
第20号駆潜艇、給糧艦鞍埼

アメリカ潜水艦部隊:
第17.15任務群（TG17.15）：潜水艦ソーフィッシュ（旗艦）、ドラム、アイスフィッシュ
ブレイクリー隊：潜水艦シャーク（旗艦）、シードラゴン、ブラックフィッシュ
* 潜水艦スヌーク

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