マダガスカル・クーデター

マダガスカル・クーデター（2009年）

2009年1月から3月にかけて、マダガスカルで発生した政治的危機は、一般に「マダガスカル・クーデター」と呼ばれています。ただし、この名称については国際的な認識が分かれており、一概にクーデターと断定されているわけではありません。

背景

2001年の大統領選挙では、現職のディディエ・ラツィラカと野党TIM党首のマーク・ラヴァルマナナによる事実上の一騎打ちとなりました。憲法高等裁判所はラヴァルマナナが最多得票者であると認めたものの、過半数には達していないとして決選投票の実施を発表しました。しかし、ラヴァルマナナとその支持者たちは独自集計で過半数の得票を獲得したとして「勝利」を宣言。この動きは全国的な支持を得て、2002年にはラツィラカがフランスへ出国し、ラヴァルマナナが大統領に就任しました。その後、ラツィラカは任期中の不正を告発され、最高裁判所から訴追を受けることになります。

2007年、首都アンタナナリヴの市長選で当選したアンドリー・ラジョエリナは、ラヴァルマナナ政権への批判を繰り返し、政府との関係は悪化の一途を辿りました。

2008年11月、政府が韓国の大宇グループに対し、マダガスカルの全農地の過半数にあたる130万ヘクタールを99年間無償で貸与する協定を締結したことが、更なる火種となります（この協定は2009年6月に暫定政府によって破棄されました）。ラジョエリナは自身が運営するテレビ局で、フランスに滞在中のラツィラカを出演させ、政府批判のインタビューを放映。これに対し政府は12月13日、ラジョエリナのテレビ局に対し、国外追放中のラツィラカを出演させたことを理由に閉鎖命令を出しました。

概要

デモ

2009年1月24日、ラヴァルマナナが南アフリカ共和国へ首脳会談のために渡航。翌25日、ラジョエリナは政府によるテレビ局閉鎖を批判し、抗議デモを呼びかけました。デモ参加者の一部が暴徒化し、公共放送などの政府施設や商業施設を襲撃。治安部隊が出動し鎮圧に当たりましたが、44人の死者を出す事態となりました。アフリカ連合は、ラジョエリナの抗議デモを非合法的な手段として非難する声明を発表しました。

2月2日、ラヴァルマナナはラジョエリナを国家反逆罪で最高裁判所に告発。最高裁はこれを受け、ラジョエリナのアンタナナリヴ市長職を免職しました。

反対集会

2月7日、ラジョエリナ率いる野党勢力はアンタナナリヴで反対集会を開き、モンジャ・ロインデフォを首相に指名。デモ隊は大統領府を占拠しようとしましたが、治安部隊が発砲し、28人が死亡、212人が負傷する惨事となりました。

この発砲事件に抗議する形で、初の女性国防大臣であるセシル・マヌルハンタが辞任しました。

2月21日、ラヴァルマナナとラジョエリナは会談し、和解で合意したものの、ラジョエリナ側がこれを拒否し、抗議デモを再開。2月26日・27日にフィアナランツァ州で行われたデモでは、政府軍との衝突で2人が死亡しました。

大統領辞任

3月14日、ラジョエリナは集会を開き、ラヴァルマナナ大統領の辞任を要求。3月15日、ラヴァルマナナは事態収拾のため、大統領職を国民投票で決定すると発表しましたが、野党勢力はこれを無視し、即時辞任を要求しました。翌16日、軍部にもラヴァルマナナ不支持が拡大し、陸軍部隊が大統領府を占拠しました。

これを受け、ラヴァルマナナは大統領辞任を表明し、全権を軍に委任。軍部は全権をすぐにラジョエリナに移譲し、ラジョエリナが暫定大統領に就任、首相にはモンジャ・ロインデフォが就任しました。

現行憲法では大統領の被選挙権は40歳以上と定められていましたが、当時34歳だったラジョエリナに対し、3月18日に憲法高等裁判所は大統領就任を容認。3月21日には大統領就任式を強行し、「世界と友好を築き、自由な未来を求める」と演説しました。また、2年以内に大統領選挙と議会の解散、総選挙を行うとしました。

ラヴァルマナナの亡命

ラジョエリナが大統領に就任後、イアヴルハの大統領執務室にいたマーク・ラヴァルマナナ前大統領は、スワジランド王国に身を寄せていることが判明しました。ラジョエリナから逮捕命令が発令されたため国外逃亡を余儀なくされ、3月23日にマダガスカルから亡命。スワジランド国王と今後の対応を協議したと報じられています。また、同日に行われたラジョエリナ抗議運動の際、抗議を行った民衆へ直接電話をかけるなど、大統領の座を取り戻そうとする動きを見せました。

ラジョエリナへの抗議

ラジョエリナの大統領就任直後の3月23日・26日には、首都アンタナナリボでラヴァルマナナ支持者による抗議デモが行われ、3000人がアンタナナリボ周辺を大行進しました。野党となったTIMの報道官は、「軍によって生まれた政権は受け入れられず、和解による合意を求める」と述べました。

その後

暫定政府は国際社会から承認を得られず、外交的に孤立しました。2010年8月、前年2月の反対集会に対する発砲事件に関与したとして、ラヴァルマナナに殺人共謀罪で本人不在のまま終身強制労働刑が言い渡されました。ラヴァルマナナは2011年2月に南アフリカからマダガスカルへ帰国しようとしましたが、政府当局の妨害により断念しています。

一方、ラジョエリナを次期大統領選挙まで暫定大統領とするための憲法改正を問う国民投票が2010年11月に行われ、賛成多数で承認されましたが、野党によるボイコットなどにより投票率は約53%と低調でした。またこの際、軍の一部が反乱を起こし鎮圧されるなど、不安定な政情が続きました。

このような状況の中、選挙による政治的危機の終結に向けたロードマップが2011年9月に関係者の合意を得て策定されました。選挙日程は2013年初めに発表されましたが、大統領選挙の一部の立候補者の違法性をめぐって事態は紛糾し、選挙は延期。アフリカ連合 (AU) や南部アフリカ開発共同体 (SADC) などの国際機構が仲介にあたり、8月に入ると事態は進展を見せ、最終選挙日程が確定しました。2013年10月25日に実施された大統領選の第一回投票では、ラヴァルマナナ政権で保健相を務めたジャン・ルイ・ロビンソン候補と、ラジョエリナ政権で財政・予算相を務めたヘリー・ラジャオナリマンピアニナ候補が決選投票に進みました。12月20日に行われた決選投票の結果、ラジャオナリマンピアニナが53.49%の僅差でロビンソンを下し、大統領に当選。2014年1月25日に就任しました。

もう一度検索