マッキ M.33

マッキ M.33

マッキ M.33は、水上機の速度記録を競う国際的な航空レース、シュナイダー・トロフィー・レースへの参加を目的として、イタリアのマッキ社が1925年に開発した単座飛行艇です。

開発とその特徴

本機は、当時の飛行艇としては先進的な空気力学を取り入れた設計が特徴でした。機体構造は単座の肩翼単葉で、主翼は支柱のない片持ち式を採用。この主翼は翼厚が薄く整形されており、左右の翼端には離着水時の安定性を保つための補助フロートが装備されていました。

動力源としては、開発当時、イタリア国内に競争力のある高性能エンジンが存在しなかったため、1923年のシュナイダー・トロフィー・レースで実績のあったアメリカ製カーチス D-12 エンジンが採用されました。このエンジンは最大出力507馬力を発揮し、空気抵抗を考慮した流線形のナセルに収められ、機体上部に設けられた支柱によって支えられる形で搭載されました。しかし、冷却方式には、効率の面でやや旧式化した平板型ラジエーターが用いられており、最新の表面ラジエーターと比べると性能で劣る点がありました。

設計面での先進性があった一方で、M.33はいくつかの技術的な課題も抱えていました。搭載されたカーチス D-12 エンジンは、その性質からか、十分に性能を発揮できず、頻繁な故障や出力不足といった問題を抱えていたとされます。また、高速飛行時には主翼にフラッター（激しい振動）が発生するなど、機体構造に関する課題にも直面していました。

1925年のシュナイダー・トロフィー・レース

1925年のシュナイダー・トロフィー・レースは、アメリカ合衆国のメリーランド州ボルチモアで開催されました。イタリアからは、このマッキ M.33が2機エントリーしました。

レースにはリッカルド・モルセッリとジョバンニ・デ・ブリガンティの二名のパイロットが搭乗しました。しかし、モルセッリ機はエンジンの点火系統にトラブルが発生し、残念ながらレースをリタイアすることとなりました。

一方、デ・ブリガンティが操縦するもう1機は、エンジンを全開にすることができないという問題を抱えながらもレースを続行しました。7周で争われるコースの2周目ではコースを間違えるミスもありましたが、デ・ブリガンティは粘り強い飛行を続け、平均速度271km/hで3位に入賞を果たしました。

この年のレースは非常に高速化しており、1位はジミー・ドーリットルが操縦するカーチス R3C-2|カーチス_R3C-2で、その平均速度は374km/hに達しました。2位にはヒューバート・ブロードが操縦するイギリスのグロスター IIIAが入り、平均速度321km/hを記録しました。マッキ M.33の記録は、上位2機と比較すると大きく差が開いていました。

レース史における位置づけ

M.33は、速度競争という性質が色濃くなったシュナイダー・トロフィー・レースにおいて、飛行艇という形式で参加した最後の機体となりました。その後の同レースでは、水上機スタイルのフロートを持つ機体が主流となっていきます。これは、高速飛行において、波立つ水面の影響を受けやすい飛行艇よりも、フロート式水上機の方が有利であると判断されるようになったためです。マッキ社自身も、M.33以降はフロート式水上機であるM.39などを開発し、シュナイダー・トロフィー・レースに挑むことになります。

スペック

マッキ M.33の主要諸元は以下の通りです。

全長: 8.29 m
全幅: 9.74 m
エンジン出力: 507 HP
最大速度: 320 km/h

登場作品

マッキ M.33は、いくつかの著名な作品に登場しています。

映画『紅の豚』: 宮崎駿監督のアニメ映画。主人公ポルコ・ロッソの愛機として登場する架空の飛行艇「サボイアS.21試作戦闘飛行艇」は、実在するサボイア S.21ではなく、このマッキ M.33をモデルにデザインされたとされています。
アニメ・漫画『紫電改のマキ』: 柏葉ヒロ作の漫画およびそれを原作としたアニメ。作中に登場する子金井ダビンチ高等専門学校所属のキャラクター、吉川三姉妹の次女・吉川二美の搭乗機として、M.33が登場します。

関連事項

アレーニア・アエルマッキ (Alenia Aermacchi): マッキ社の後身企業の一つ。
飛行艇: 水上を滑走して離着水する航空機の一種。
* マッキ M.39|マッキ_M.39: M.33の後に開発されたシュナイダー・トロフィー・レース用水上機。

マッキ M.33は、シュナイダー・トロフィー・レースという歴史的な舞台で、イタリアの航空技術と挑戦の歴史を刻んだ飛行艇として記憶されています。その特異な形状とレースでのエピソード、そしてフィクション作品への影響は、今なお多くの航空ファンや作品の愛好者に語り継がれています。

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