マッキントッシュの聖母

『マッキントッシュの聖母』

『マッキントッシュの聖母』、またの名を『塔の聖母』は、イタリアの巨匠ラファエロ・サンツィオが1509年から1511年の間に制作した著名な絵画です。この作品は、聖母マリアが幼児キリストを抱いている情景を描いており、現在はロンドンのナショナル・ギャラリーに所蔵されています。一方で、絵画の原寸大下絵は大英博物館に収蔵され、作品がどのように構想されたかを示しています。

作品の中で、聖母マリアは美しい田園風景を背景に、幼子キリストを抱いて欄干に腰を下ろしています。彼女は左手でキリストの足を支え、右手で彼を引き寄せていますが、その表情からは少し陰鬱な気分が感じ取れ、まるでキリストの将来の運命について思いを巡らせているかのようです。この聖母の姿勢は、同じくナショナル・ギャラリーにある『カーネーションの聖母』のポーズに似通っています。

幼児キリストは母の首に愛情を込めて腕を回し、鑑賞者に笑みを向けています。作品の左側には、作品の副題にもある塔が描かれており、これが「塔の聖母」との呼称の由来となっています。絵画が制作された時期は、ラファエロがヴァチカンでの壁画を手掛けていた初期のローマ時代にあたります。

元々は板絵として作られたこの作品は、18世紀にキャンバスへ支持体を変更する際に甚大な損傷を受け、修復が行われました。そのため、オリジナルの状態を当時どのようなものだったかを正確に知ることは難しいですが、大英博物館に所蔵されているカルトンの素描がそのヒントとなる情報を提供してくれます。

この素描は、ラファエロが画面の人物をやわらかな薄明りの背景に配置しようとした試みが見られ、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品と関連する様式が窺えます。作品の中での聖母と幼児の顔立ちは明暗によって強調され、特に幼いキリストの愛らしさと、物思いにふける聖母の対比が際立っています。聖母が少し顔をそむける姿勢は、彼女がキリストの運命を知っているかのようであり、その結果としての悲しみに耐えている姿を象徴しています。

絵画の影響力は非常に広範で、ラファエロの作品は多くの複製を生み出しました。大英博物館の素描には、作品の持つ心理的な深みがひしひしと伝わり、後の芸術家に大いに影響を与えたことがわかります。ラファエロから影響を受けたドメニコ・アルファニは、1518年に制作した『聖グレゴリウスと聖ニコラスのいる聖母』の基礎としてこのカルトンを使用したとされています。また、複製も数多く存在し、17世紀にはボルゲーゼ美術館にイル・サッソフェッラートによる『聖母子』が収められ、19世紀には新古典主義の巨匠ドミニク・アングルが複製を手掛けています。

絵画の来歴については多くが不明ですが、オルレアン・コレクションの一部であったことが知られています。その後、ロンドンで売却され、銀行家・詩人のサミュエル・ロジャースなどの個人コレクターによって所有されていました。そして1906年、エヴァ・マッキントッシュによってナショナル・ギャラリーに寄贈されました。

この作品は、ラファエロの卓越した技術と洞察力による偉大な芸術作品の一例であり、聖母子像の中でも特に感情深い作品として多くの人々に愛されています。

もう一度検索