オルレアン・コレクション

オルレアン・コレクション：ヨーロッパ絵画史の至宝

オルレアン・コレクションは、18世紀フランスのオルレアン公フィリップ2世（1674年 - 1723年）が蒐集した、500点を超える膨大な絵画コレクションです。このコレクションは、単なる個人の収集を超え、ヨーロッパ美術史における重要な転換点を示すものとして、今日まで美術愛好家や研究者の注目を集めています。

コレクションの形成

オルレアン・コレクションの核となったのは、スウェーデン女王クリスティーナ（1626年 - 1689年）が所有していた123点の絵画コレクションです。クリスティーナのコレクションは、三十年戦争中にスウェーデン軍が戦利品として持ち去ったもので、神聖ローマ皇帝ルドルフ2世（1552年 - 1612年）のコレクションがその多くを占めていました。ルドルフ2世のコレクションは、さらにその前の時代にアントワーヌ・ド・グランヴェル（1517年 - 1586年）が収集したものが多く含まれており、このコレクションがハプスブルク家のコレクションのなかでも最上級の美術品とされていました。

クリスティーナ女王は、1654年に王位をカール10世に譲り、自らはローマへと移り住みました。ローマ滞在中に、彼女は美術品収集をさらに活発化させ、ラファエロの祭壇画の断片やティツィアーノの作品などを入手しました。彼女のコレクションは、その後、枢機卿デシオ・アッツォリーノを経て、ローマ教皇軍の司令官だったブラッチャーノ公ドン・リヴィオ・オデスカルキに売却され、最終的にオルレアン公フィリップ2世の手に渡ることになりました。

フィリップ2世は、クリスティーナのコレクションの他にも、フランス国内外の多くのコレクターから絵画を購入しました。中には、枢機卿リシュリュー、マザラン、ジャン＝バティスト・コルベールなど、著名なコレクターのコレクションも含まれています。また、スペイン王フェリペ5世からフランス大使に贈られたティツィアーノの「ポエジア」シリーズの一部も含まれていました。こうして、オルレアン・コレクションは、イタリア、フランス、フランドル、オランダなど、ヨーロッパ各地の優れた絵画が集結した、非常に質の高いコレクションとして形成されました。

コレクションの展示と公開

オルレアン・コレクションは、パリのパレ・ロワイヤルに収蔵され、その豪華な調度品とともに展示されました。特に、円天井の天窓から降り注ぐ光が絵画を照らし出す様は、「光り輝くギャラリー」と賞賛されました。コレクションは、1727年に初めて公開され、1737年には目録が出版されました。多くの人々がパレ・ロワイヤルを訪れ、この素晴らしいコレクションを鑑賞しました。

コレクションは、画家の流派や描かれているモチーフに関係なく、壁に並べて展示した際にもっとも効果的であると思われる順番で展示されました。この展示方法は、ピエール・クロザが自身の邸宅で実践していた方法と同じでした。

コレクションの分散とその後

フィリップ2世の曾孫であるルイ・フィリップ2世は、ギャンブルで財産を失い、コレクションを手放すことを余儀なくされました。1787年にはインタリオのコレクションをロシア女帝エカチェリーナ2世に売却し、1792年にはドイツ、オランダ、フランドル絵画を画商に売却しました。そして、残りのイタリア、フランス絵画はブリュッセルの銀行家へと売却されます。しかし、この売却を巡り、ルイ・フィリップ2世と売却を仲介した銀行家は処刑されてしまい、コレクションはロンドンへと渡ることになりました。

1798年、オルレアン・コレクションは、イギリスの貴族である第3代ブリッジウォータ公フランシス・エジャートン、後の初代サザーランド公ジョージ・グランヴィル・レヴェソン＝ガウアーとその親族らによって購入されました。購入後、ロンドンで展示公開され、多くの絵画がイギリスのコレクターたちの手に渡りました。

エジャートンらの購入したコレクションは、その後、彼らの子孫に受け継がれ、ブリッジウォータ・コレクションとして知られるようになりました。現在でも、一部の絵画は、スコットランド国立美術館やヨークシャーのカースル・ハワードなどで展示され、その美しい姿を今に伝えています。また、ロンドンのナショナル・ギャラリーには、様々な方法で収集されたオルレアン・コレクションの絵画25点が所蔵されています。

オルレアン・コレクションの主要作品

オルレアン・コレクションは、特に盛期ルネサンス、後期ルネサンスのイタリア絵画、特にヴェネツィア派の作品に優れていました。ティツィアーノの「ポエジア」シリーズ、ヴェロネーゼの神話画連作、ラファエロ、ティントレット、コレッジョなどの作品が含まれていました。また、プッサンの秘蹟を描いた連作や、ルーベンスの習作、ヴァン・ダイクの絵画なども注目されました。

オルレアン・コレクションが美術史に与えた影響

オルレアン・コレクションは、その後のヨーロッパにおける美術コレクションのあり方や、絵画の展示方法に大きな影響を与えました。また、このコレクションの散逸は、美術品の流通や保存に関する様々な問題を浮き彫りにし、その後の美術史研究の重要なテーマとなりました。

まとめ

オルレアン・コレクションは、ヨーロッパ美術史における重要なコレクションの一つであり、その成立過程や分散の歴史は、18世紀のヨーロッパ社会や文化を理解する上で欠かせないものです。このコレクションを通じて、私たちは、過去の偉大な芸術家たちの才能に触れることができるだけでなく、美術品を取り巻く人々の情熱や欲望、そしてその後の歴史の流れをも感じ取ることができるでしょう。

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