マックス・ベア (ボクサー)

プロボクサー、そして俳優として知られるマックス・ベアは、1909年2月11日にアメリカ合衆国ネブラスカ州オマハに生を受けました。世界ヘビー級の頂点に立った彼のキャリアは、その豪快なパンチ力で人々を魅了する一方で、複数の悲劇が影を落とすという、まさに波乱に満ちたものでした。彼には、同じくヘビー級で活躍し、ジョー・ルイスに二度挑んだ弟のバディ・ベアがおり、また息子であるマックス・ベア・ジュニアも俳優として知られています。

ベアがプロの世界に足を踏み入れたのは1929年5月16日のことです。彼は瞬く間にその強打で頭角を現しますが、その力が予期せぬ悲劇を招くことになります。1930年8月25日に行われたフランキー・キャンベルとの対戦で、ベアは5回TKO勝利を収めますが、キャンベルは試合中の負傷が原因で翌日にこの世を去りました。この出来事は、若きベアにとって大きな精神的な負担となったと言われています。

さらに、1932年8月31日のアーニー・シャーフとの試合でも、ベアは10回判定で勝利しましたが、シャーフはその後、1933年2月にプリモ・カルネラとの試合でKO負けし、数日後に亡くなりました。当時のスポーツ記者の中には、シャーフがベア戦で受けたダメージがその後の状態に影響したのではないかと指摘する声も存在しました。二度にわたる対戦相手の死は、ベアのボクシングキャリアに暗い影を落とし続けました。

しかし、こうした悲劇を乗り越え、ベアはボクサーとして更なる高みを目指します。1933年6月8日には、かつての世界王者マックス・シュメリングと対戦し、10回TKOで勝利。この劇的な一戦は、その年のリングマガジン ファイト・オブ・ザ・イヤーに選ばれました。そして1934年6月14日、ベアは巨漢王者プリモ・カルネラが保持する世界ヘビー級王座に挑戦します。このタイトルマッチでベアは圧巻のパフォーマンスを見せ、カルネラから実に11度ものダウンを奪った末、11回TKO勝ち。見事に世界ヘビー級のベルトをその腰に巻きました。

しかし、栄光は長く続きませんでした。1935年6月13日、初防衛戦の相手はジェームス・J・ブラドックでした。下馬評ではベアが圧倒的に有利と目されていましたが、ブラドックの粘り強く戦略的なボクシングに苦戦。結果、15ラウンドの判定で敗れ、王座から陥落するというまさかの展開となりました。この試合は1935年のリングマガジン アップセット・オブ・ザ・イヤーに選ばれ、後にブラドックの物語を描いた映画「シンデレラマン」の題材ともなりました。

王座を失ったベアは、同年9月24日、ボクシング史に名を刻むことになる若き強豪ジョー・ルイスと拳を交えます。雪辱を目指す一戦でしたが、ルイスの猛攻の前に4回KO負けを喫しました。このルイス戦もまた、1935年のリングマガジン ファイト・オブ・ザ・イヤーに選ばれています。

その後もベアはリングに上がり続け、1938年3月11日にはトミー・ファーとの試合に判定勝利。この試合も1938年のリングマガジン アップセット・オブ・ザ・イヤーに選ばれるなど、引退までタフな試合を経験しました。1941年4月4日の試合を最後に、マックス・ベアはプロボクサーとしてのキャリアに終止符を打ちます。

ボクシング界から引退したベアは、新たな活動の場を見出します。俳優として数々の映画に出演し、リング上とは異なる世界でその才能を発揮しました。世界ヘビー級王者としての栄光、対戦相手の死という悲劇、そして俳優としての成功と、マックス・ベアの生涯はまさに光と影が交錯するものでした。彼の強打と波乱万丈なキャリアは、今なおボクシング史の中で特別な存在として記憶されています。

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