マッチボックス (曲)

マッチボックス：ブルースの系譜とビートルズのカバー

カール・パーキンスによって1957年に発表された楽曲「マッチボックス (Matchbox)」は、ロックンロール史に刻まれた重要な曲の一つです。単なるヒット曲にとどまらず、ブルースの歴史や、後世のアーティストへの影響、そしてビートルズとの関わりなど、多角的に考察できる魅力的な作品となっています。

ブルースの伝統を受け継ぐ楽曲

「マッチボックス」は、1956年12月にレコーディングされ、翌年シングル「ユア・トゥルー・ラブ」のB面として発売されました。A面曲こそチャートインを果たしましたが、B面である「マッチボックス」は、ジェリー・リー・ルイスやビートルズなど、多くのアーティストによってカバーされることとなり、パーキンスの代表曲として長く愛されることになります。

その歌詞には、ブラインド・レモン・ジェファーソンが1927年に発表した「マッチ・ボックス・ブルース」と共通するフレーズが含まれていることが指摘されています。さらに遡れば、1924年にはマ・レイニーが「Lost Wandering Blues」の中で「Matchbox」をスーツケースの意味で用いています。作家ポール・オリバーは、レイニーとジェファーソンが伝統的な表現からこのフレーズを取り入れたのではないかと推測しています。これらの繋がりは、「マッチボックス」が単なる楽曲ではなく、アメリカの音楽史、特にブルースの流れを汲む作品であることを示唆しています。

偶然の産物から生まれた名曲

「マッチボックス」の誕生秘話も興味深いものです。パーキンスの父、バックがスタジオに訪れた際に、「マッチ・ボックス・ブルース」を演奏するよう提案したことがきっかけでした。バックは歌詞の一部しか覚えていませんでしたが、その断片を基に、当時サン・スタジオのセッション・ミュージシャンだったジェリー・リー・ルイスのピアノのリフに合わせて、パーキンスはギターで即興演奏を始めました。この即興演奏が、後に正式にレコーディングされ、「マッチボックス」として世に出ることになったのです。

パーキンス自身は、マ・レイニーやジェファーソンの曲を直接聴いたことはなく、父がラジオや畑仕事で聴いていた古いブルースの影響ではないかと推測しています。ジェファーソンの「マッチ・ボックス・ブルース」が力強い女性を歌っているのに対し、「マッチボックス」では愛に飢えた貧しい少年が描かれているという対比も興味深い点です。

ビートルズのカバーとチャート成功

ビートルズは、パーキンスの大ファンであり、1961年から1962年にかけて「マッチボックス」をライブで演奏していました。初期のドラマー、ピート・ベストがリードボーカルを務めていたライブ音源も残されています。ベストの後任であるリンゴ・スターは1963年から同曲を演奏し、1964年にはパーキンス本人も参加したレコーディングも行われています。しかし、スターはレコーディング当時、体調不良で満足なパフォーマンスができなかったことを後に語っています。音楽評論家イアン・マクドナルドは、ビートルズのカバーを「平坦な足取り」と評しましたが、ジョージ・ハリスンだけはパーキンスのギター奏法を研究しており、熱意を感じさせたと指摘しています。

ビートルズによる「マッチボックス」は、イギリスではEP『のっぽのサリー』に収録され、アメリカではアルバム『サムシング・ニュー』に収録、さらにシングルとしても発売されました。アメリカとカナダのチャートでは最高位17位を記録し、数々のコンピレーションアルバムにも収録されるなど、ビートルズにとっても重要な楽曲の一つとなりました。

まとめ

「マッチボックス」は、ブルースの伝統を受け継ぎながらも、パーキンス独特の感性によって生み出された、時代を超えて愛される名曲です。その誕生秘話やビートルズによるカバー、そしてチャート成績など、様々な側面から見ていくことで、この楽曲の持つ奥深さを改めて知ることができます。ブルースの歴史、ロックンロールの発展、そしてビートルズという偉大なバンドの軌跡を理解する上で、「マッチボックス」は重要なキーワードとなるでしょう。

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