マツダ・10A型エンジン

マツダ 10A型ロータリーエンジンの開発と進化：市販車からレーシングカーまで

マツダ 10A型エンジンは、東洋工業（現マツダ）が開発した世界初の量産型直列2ローターガソリンエンジンです。1967年、初代マツダ・コスモ・スポーツ（L10A型）に搭載され、その名を歴史に刻みました。型式名「10A」は、約1000ccの排気量と、開発順序を示す「A」から命名されました。この10A型エンジンは、13A型を除く後のマツダロータリーエンジンの基本設計に大きな影響を与え、ローター半径と偏心量といった重要な設計パラメーターは、後のモデルにも受け継がれています。

10A型エンジンのメカニズム

10A型エンジンの主要構成部品は以下の通りです。

ローターハウジング: アルミダイカスト製。トロコイド面には、潤滑性を高めるクロムメッキが施されています。
アペックスシール: 開発において大きな課題であった部品。アルミを含浸させたカーボン材を使用し、自己潤滑性を確保しています。幅6mmの一体型です。
ローター: ダクタイル鋳鉄製。サイドシールは幅1mmの二重構造、オイルシールは三重構造で、当時の技術の高さを示しています。ローターの回転運動は、内歯歯車と外歯歯車の噛み合いによって出力軸に伝達され、出力軸の回転数はローターの3倍になります。
サイドハウジング: アルミ鋳造品。ローター摺動面には、耐摩耗性を高める炭素鋼層が溶射されています。
吸気ポート: 低速トルク重視のため、サイドポート方式を採用。1ローターあたり2個の吸気ポートを備えています。
排気ポート: ペリフェラルポート方式を採用。1ローターあたり1個の排気ポートを備えています。
キャブレター: 4バレルキャブレターを1基搭載。低速域では2バレル、高速域では4バレルを使用することで、幅広い回転域での性能を確保しています。また、アペックスシールの潤滑用に、アクセル開度と連動したメタリングポンプでオイルを混合気に供給する仕組みも備えています。
出力軸: 炭素鋼鍛造シャフト。出力軸の前後2箇所にのみ軸受があり、ローター間にはありません。出力軸内には、ローターの潤滑と冷却を兼ねたオイルジェット通路が設けられています。オイル冷却のため、オイルクーラーは必須です。

10A型エンジンの改良と進化

10A型エンジンは、生産性向上、低速トルクの向上、排気ガス規制への対応といった様々な要求に応えるため、継続的に改良が加えられました。主な改良点は以下の通りです。

1968年コスモスポーツ後期型: パワーアップと合わせて、サイドハウジングの材質をアルミから鋳鉄に変更し、炭素鋼溶射を廃止しました。
1968年ファミリアロータリークーペ: 量産性と実用性を向上。サイドハウジングの材質変更、オイルシールの簡素化、ポートタイミングの変更、キャブレター小型化などが行われました。
1969年 R100: アメリカ輸出に伴い、カリフォルニア州の排気ガス規制に対応するため、サーマルリアクターが追加されました。
1971年サバンナ: 排気ポートのタイミング変更、3穴式ハニカムポートへの変更、排気熱保持のための鋳鉄製チャンバーの追加など、排気ガス対策が強化されました。ローターハウジングの表面処理も改良されています。
* 1973年: 排ガス規制対応のため、生産中止となりました。

レース用10A型エンジンの開発と活躍

10A型エンジンは、市販車への搭載だけでなく、モータースポーツの世界でもその性能を証明しました。国際自動車連盟の規定により排気量換算係数が適用され、2000cc相当のエンジンとして、ヨーロッパや日本の耐久レースに参戦しました。

海外耐久レース: ニュルブルクリンクで開催されたマラソン・デ・ラ・ルート84時間耐久レース、スパ・フランコルシャン24時間レース、ヨーロッパツーリングカー選手権など、数々のレースで活躍し、ロータリーエンジンの耐久性と信頼性を世界にアピールしました。さまざまな工夫が凝らされた吸気系、キャブレター、排気系など、レース活動を通して得られた知見は、後のロータリーエンジンの開発に活かされました。

国内レース: ヨーロッパでの活躍が日本国内で十分に知られていなかったことから、マツダは国内レースへの参戦も開始しました。スカイラインGT-Rとの対決など、国内レースでも10A型エンジンの性能の高さを示しました。しかし、ペリフェラルポートの使用禁止などのレギュレーション変更など、多くの困難に直面しました。

10A型エンジンの搭載車

10A型エンジンは、コスモスポーツ、ファミリア、サバンナといった市販車、RX-500といったコンセプトカー、そして数々のレーシングカーに搭載され、マツダの歴史に貢献しました。

まとめ

10A型エンジンは、マツダのロータリーエンジン技術の礎を築いた重要なエンジンです。その革新的な技術と、過酷なレースでの活躍は、自動車史に大きな足跡を残しました。開発からレース参戦まで、様々な改良が加えられ、時代に合わせて進化を遂げてきた10A型エンジンは、マツダの技術力の高さを示す象徴的な存在と言えるでしょう。

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