マティアス・シュパーリンガー

ドイツの現代音楽作曲家、マティアス・シュパーリンガーは、1944年 10月15日にフランクフルトで生まれました。既存の音楽的伝統からの意識的な断絶と、実験的な音響、特殊な楽器編成を用いた独自の作風で知られています。教育者としても長年にわたりドイツの主要な音楽大学で教鞭を執り、現代音楽の発展に貢献しました。

生い立ちと初期の音楽経験

シュパーリンガーの音楽との関わりは、フランクフルト歌劇場のチェリストだった父親の影響から始まりました。彼は早くからフィドル、ヴィオラ、リコーダーといった様々な楽器に触れ、その後チェロも学び始めます。この頃、中世音楽にも接する機会がありました。8歳からはピアノのレッスンを受け、サクソフォーンも習得。フランクフルト歌劇場の子供合唱団にも参加するなど、多岐にわたる音楽的経験を積みました。特に青年期にはジャズに深く傾倒し、集中して研究とレッスンを受け、ジャズミュージシャンを目指すようになります。この時期、彼はフランクフルトのジャズバーで、伝統的な形式にとらわれない自由な即興演奏家として知られていました。

学びとキャリアの道筋

1962年に一般課程の学校から商業学校へ移り、父親の意向を受けて1965年まで植字技術を習得しました。植字の見習い期間中も音楽への情熱は続き、1964年にはコンラッド・レヒナーから作曲の個人レッスンを受け始めます。このレッスンは、1965年にダルムシュタットの市立音楽芸術アカデミーに進学した後も継続されました。アカデミーではレヒナーに作曲を、ヴェルナー・ホップストックにピアノを師事し、専門的な音楽教育を受けました。

1968年に音楽講師の国家資格を取得したシュパーリンガーは、シュトゥットガルト国立音楽学校でピアノ、音楽理論、基礎音楽教育、子供向け音楽教育、リコーダーなど、幅広い分野を教えることになります。彼は教育活動と並行して作曲の探求を続け、シュトゥットガルト音楽演劇大学で実験音楽に関する教師研究会を設立。1973年から1977年にかけては、エルハルト・カルコシュカから作曲の指導を受けました。

作曲家としての認知と教育活動

1977年に演奏家資格試験（博士号に準ずる）に合格した後、1978年から1981年までベルリン芸術大学で音楽理論の講師を務めました。この時期は、彼の作曲家としての作品がドイツ国内で広く認知され始める重要な転換期となります。1979年には南西ドイツ放送のハインリヒ・ストローベル財団の奨学生に選ばれ、1980年と1982年には代表作とされる《éphémere》や《aussageverweigerung-gegendarstellung》によってキュンストラーハウス・ボスウィル財団からの賞を受賞しました。

その後、教育者としてのキャリアを本格化させ、1984年からはカールスルーエ国立音楽大学で音楽理論講師を務めた後、作曲科の教授に就任しました。1990年には、著名な作曲家クラウス・フーバーの後任としてフライブルク国立音楽大学の作曲科教授に就任し、同時に現代音楽研究所の所長も兼任しました。教育と研究の中心的人物として、次世代の作曲家育成に尽力しました。1996年にはベルリン芸術アカデミーの会員に選ばれ、ドイツ芸術界における地位を確立しました。

独自の作風と音楽思想

シュパーリンガーの音楽スタイルは、既存の音楽言語や形式を徹底的に問い直し、破壊することに特徴があります。彼は「現代音楽は過去のいかなる音楽とも切り離された実験を意味する」という確固たる姿勢を貫きました。特にヘルムート・ラッヘンマンと比較されることもありますが、シュパーリンガーはより積極的に「騒音」的な音響効果を作品に取り入れています。

彼の作品では、通常のオーケストラ編成よりも、7台のピアノのための《farben der frühe》や6台の小さなスネアドラムのための《off》といった、特殊かつ変則的な楽器編成が多く見られます。これは、伝統的な楽器の枠を超えた音色の探求や、楽器の標準的な奏法からの逸脱を意図しているためです。こうした手法を通じて、聴き慣れない音響空間や構造を生み出し、リスナーに新たな聴覚体験を提示しています。

受賞と現在

シュパーリンガーは、長年の音楽界への貢献が認められ、2014年には権威あるベルリン芸術大賞を受賞しました。

2009年にフライブルク国立音楽大学を退職した後、現在はポツダムに在住しています。教育の第一線からは退いたものの、彼の革新的な音楽思想と作品は、現代音楽の重要な一角を占めています。

主要作品（一部抜粋）

- Orchester: 《morendo》(1975), 《passage / paysage》(1988-1990), 《akt, eine treppe herabsteigend》(1997-1998)
- Kammermusik: 《éphémère》(1977), 《aussageverweigerung / gegendarstellung》(1981), 《farben der frühe》(1997-2005)
- Vokalwerke: 《el sonido silencioso》(1979-1980), 《verfluchung》(1983-1985)
- Musiktheater: 《pablo picasso: wie man wünsche beim schwanz packt》(1980)

シュパーリンガーの音楽は、常に既存の概念に挑戦し、聴く者に新たな音響世界を提示し続けています。その radical なアプローチは、現代音楽の多様性と可能性を広げる上で重要な意味を持っています。

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