マティルド・ド・ブローニュ

ブローニュ女伯マティルド：イングランド王位継承争いと愛の物語

マティルド・ド・ブローニュ（1103年/1105年 - 1152年3月3日）は、12世紀イングランドの歴史において重要な役割を果たした女性です。ブローニュ女伯として、そしてイングランド王スティーブンの妃として、彼女は権力闘争の渦中に身を投じ、その生涯はドラマチックな展開を見せます。

高貴な出自と王室との繋がり

マティルドは、ブローニュ伯ウスタシュ3世と、スコットランド王マルカム3世と王妃マーガレットの娘であるメアリーとの間に生まれました。この出自は、彼女をイングランド王室と深く結びつけます。彼女の母方の叔母にあたるのは、イングランド王ヘンリー1世の王妃マティルダ（モード皇后）であり、マティルドはモード皇后の母方の従姉妹にあたります。さらに、父方の叔父には、第1回十字軍の指導者ゴドフロワ・ド・ブイヨンとエルサレム王ボードゥアン1世がいます。王族や聖地エルサレムとの血縁関係は、彼女の人生に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

イングランド王妃への道とスティーブンとの結婚

1125年、ヘンリー1世の仲介によって、マティルドはブロワ伯エティエンヌ2世の息子エティエンヌ（後のイングランド王スティーブン）と結婚します。この結婚は、彼女をイングランド王位継承争いに巻き込むことになります。夫スティーブンは、ヘンリー1世の娘モードと王位継承権を争い、内戦を引き起こすことになるのです。 同年、父ウスタシュ3世が死去したため、マティルドはブローニュ伯位も継承しました。

1135年、ヘンリー1世が崩御すると、スティーブンはモードを出し抜き、イングランド王位に就きます。そして、12月26日、夫妻はウェストミンスター寺院で戴冠しました。スティーブンは勇敢な戦士でしたが、優柔不断な性格から為政者としては評価が低かったと伝えられています。一方、マティルドはロンドン市民にも受け入れられ、気品と美貌に加え、勇敢さと決断力も兼ね備えた女性として夫を支えました。

無政府時代とマティルドの活躍

スティーブン王の治世は、モードとの王位継承争いによる内戦（無政府時代）によって混乱を極めました。この激動の時代において、マティルドは夫を積極的に支援しました。1141年2月、第一次リンカーンの戦いでスティーブンがモードの異母兄グロスター伯ロバートに捕らえられると、マティルドはモードからロンドンを奪回。さらに同年9月には自ら軍を率いてグロスター伯を捕虜とし、夫との捕虜交換を実現しました。この出来事は、彼女の優れた指導力と勇気を示すものです。

晩年と遺産

1152年、マティルドは夫に先立ち亡くなりました。内戦終結を見届けることなく、彼女の死はスティーブンに大きな悲しみをもたらしました。夫の死後、モードの息子ヘンリーと和睦し、1154年にはヘンリーがイングランド王ヘンリー2世として即位しました。マティルドの遺体はケント州フェヴァーシャム修道院に埋葬され、後に夫と長男ウスタシュもそこに葬られました。

5人の子供たち

マティルドはスティーブンとの間に、ボードゥアン、ウスタシュ4世、マオー、マリー、ギヨーム1世の5人の子供をもうけました。中でもウスタシュ4世とギヨーム1世はブローニュ伯位を継承し、マリーはフランドル伯ティエリー・ダルザスの長男マチューと結婚しています。彼らの生涯も、イングランドとヨーロッパの歴史に影を落とした複雑な時代を反映しています。

マティルド・ド・ブローニュは、単なる王妃ではなく、イングランドの歴史を語る上で欠かせない存在です。その生涯は、権力闘争、家族愛、そして中世イングランドの激動の時代を象徴するものでした。

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