ゴドフロワ・ド・ブイヨン

ゴドフロワ・ド・ブイヨン：十字軍の英雄、エルサレム王国の初代統治者

ゴドフロワ・ド・ブイヨン（1060年 - 1100年7月18日）は、中世フランスの貴族であり、第1回十字軍の指導者の一人として名を馳せました。また、1099年から1100年にかけてエルサレム王国の初代統治者として聖地を統治し、その短い治世の中で王国をイスラム勢力から守り抜きました。彼は「エルサレム王」の称号を避け、「聖墳墓守護者」などを名乗ったと伝えられています。

若年期

ゴドフロワは、ブローニュ伯ウスタシュ2世の次男として生まれました。母はゴットフリート顎髭公の娘イド・ド・ブローニュです。生誕地はブローニュとする説が有力ですが、ベルギーのバイジーとする説もあります。次男であったため、貴族としての出世の機会は限られていましたが、母方の叔父であるゴットフリート4世が死去したため、下ロレーヌ公国を継承することになりました。

下ロレーヌ公国は、フランスとドイツの間の緩衝地帯であり、政治的に非常に重要な地域でした。神聖ローマ皇帝ハインリヒ4世は、当初ゴドフロワにブイヨン地域とアントウェルペン辺境伯国のみを与えましたが、ゴドフロワの忠誠心を試すためだったとされています。ゴドフロワはハインリヒ4世を支持し、叙任権闘争で教皇グレゴリウス7世と対立する皇帝を支援しました。彼はハインリヒ4世と共にシュヴァーベン公ルドルフの軍勢と戦い、ローマ入城にも従軍しました。

また、ロレーヌ公領の相続権を主張する叔母のマティルデ・ディ・カノッサとの間で争いが起こりました。ゴドフロワは兄弟の助けを借りてこの戦いを制し、ロレーヌを守り抜きましたが、この時点ではまだ弱小諸侯の一人に過ぎませんでした。

第1回十字軍への参加

1095年、教皇ウルバヌス2世が聖地エルサレムの解放を呼びかけ、ゴドフロワはこれに応じました。彼は自身の領土を売却し、十字軍を結成しました。この軍勢には兄弟のウスタシュとボードゥアンも参加しました。他の諸侯も同様に軍を集めていましたが、その中でもトゥールーズ伯レーモン4世が最も大規模な軍勢を率いていました。レーモンは経験豊富な老将であり、十字軍の総司令官として期待されていました。

十字軍は数部隊に分かれて進軍し、ゴドフロワ率いるロレーヌ軍は民衆十字軍がたどった経路に従って進軍しました。民衆十字軍はラインラント地方でユダヤ人虐殺事件を起こしており、ゴドフロワも一時的に関与を疑われましたが、実際には虐殺を阻止したとされています。その後、ゴドフロワの軍勢はハンガリーに入り、現地の軍との交渉を経てコンスタンティノープルに到着しました。

コンスタンティノープルに集結した十字軍は、その規模の大きさにビザンツ皇帝アレクシオス1世コムネノスを困惑させました。ビザンツ帝国は十字軍に帝国への忠誠を求め、再征服した領土の一部を帝国に還元することを要求しましたが、レーモン4世を除く多くの諸侯がこの条件を認めました。

ニカイア・アンティオキアの征服

1097年、ゴドフロワの軍勢はボスポラス海峡を渡り、アナトリア半島に進軍しました。ニカイア包囲戦では、ボエモンが指揮を執りましたが、ビザンツ軍が十字軍を出し抜いてニカイアを占領したことで、両者の間に不信感が生まれました。

ゴドフロワは、ドリュラエウムの戦いにおいて、セルジューク軍の奇襲を受けたボエモンらを救援しました。進軍途中で熊に襲われて負傷したという逸話も残っています。アンティオキア包囲戦は長く苦しい戦いとなりましたが、十字軍は最終的にアンティオキアを占領することに成功しました。しかし、ボエモンはアンティオキアをビザンツ帝国に献上せず、自身の領土とすることを宣言しました。

エルサレムへの進軍

アンティオキア占領後、十字軍は内部対立を起こし、レーモン4世は進軍を拒否しました。しかし、将兵の強い要請を受けて南進を再開し、ゴドフロワもこれに参加しました。十字軍はエルサレムでファーティマ朝と対峙し、1099年7月にエルサレムを攻略しました。この戦いでゴドフロワは、最初に城壁を抑え、市街への突入を果たしました。エルサレムの陥落は、3年に及ぶ十字軍遠征の集大成であり、聖地の奪還を象徴する出来事となりました。

エルサレム王国

エルサレムがキリスト教勢力下に置かれた後、ゴドフロワはエルサレムの統治者に選出されました。彼は「エルサレム王」の称号を避け、「聖墳墓守護者」などを名乗りました。彼の治世は短期間でしたが、アスカロンの戦いでファーティマ朝を撃破し、王国を守り抜きました。しかし、王国の方針を巡って、教会勢力と対立することもありました。

ゴドフロワは、エルサレム王国の領地拡大にも尽力しましたが、1100年に亡くなりました。エルサレム王位は弟のボードゥアンが継承しました。

死

ゴドフロワの死因については、アッコの城壁攻撃中に受けた傷が原因であるという説と、病死したという説があります。彼は結婚しておらず、毒殺されたという説も存在しますが、可能性は低いとされています。おそらくは腸チフスで亡くなったと考えられています。

ゴドフロワ・ド・ブイヨンは、その勇敢さと敬虔さから、中世の英雄として讃えられています。彼は十字軍の象徴的な存在であり、その伝説は後世に語り継がれています。

参考文献

一次資料
アルベルト・オブ・アーヘン, 『Historia Ierosolimitana』
『Gesta Francorum』
ラルフ・オブ・カーン, 『Gesta Tancredi』
フールケ・ド・シャルトル, 『Chronicle』
レイモン・ド・アギュ, 『Historia Francorum qui ceperunt Iherusalem』
エッケハルト・オブ・アウラ, 『Chronik』
ウィリアム・オブ・タイヤ, 『Historia』
アンナ・コムネナ, 『アレクシアス』
外部リンク
ウィキメディア・コモンズには、ゴドフロワ・ド・ブイヨンに関するカテゴリがあります。

関連項目

ゴドフロワ・ド・ブイヨンに従軍した諸侯の一覧
ゴドフロワ・ド・ブイヨンの称号
ブイヨンの領主一覧
ブイヨン城
エルサレム十字

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