マテ・ボバン

マテ・ボバン：ヘルツェグ＝ボスナの指導者

マテ・ボバン（1940年 - 1997年7月7日）は、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争期にヘルツェグ＝ボスナ・クロアチア人共和国の指導者として活動した人物です。国際的な承認を得られなかったこの国家において、ボバンは唯一の大統領を務めました。

生涯と政治活動

ユーゴスラビア王国時代の1940年、ヘルツェゴビナ地方のソヴィチで生まれたボバンは、社会主義時代には出版会社を経営し、タバコ工場の役員も務めました。早くから共産主義者同盟に所属していましたが、クロアチア民主同盟（HDZ）の結成に参加。ボスニア・ヘルツェゴビナ議会の議員、HDZの副党首、そしてHDZ-BiHの党首を歴任しました。

ヘルツェグ＝ボスナの建国と紛争

1991年11月18日、ボバンは「ヘルツェグ＝ボスナ・クロアチア人共同体」の設立を宣言しました。これは、ボスニア・ヘルツェゴビナ領内における独立した政治的、文化的、経済的、領域的な存在を目指すものでした。背景には、クロアチアのフラニョ・トゥジマン大統領とセルビアのスロボダン・ミロシェヴィッチ大統領によるボスニア・ヘルツェゴビナ分割の意向があったとも言われています。

ボバンはボスニアのセルビア人勢力である「ボスニア・ヘルツェゴビナ・セルビア人共和国」のラドヴァン・カラジッチ大統領と会談し、ボスニア・ヘルツェゴビナを分割することで合意。ボシュニャク人勢力との対立を深めました。また、ボバンは反対勢力の暗殺を指示したとも言われており、スティエパン・クリュイッチ、ブラジュ・クラリェヴィッチ、トミスラヴ・ドレタルなどが標的となりました。

1992年6月から1993年初頭にかけて、クロアチア人勢力とボシュニャク人勢力の間で緊張が高まり、遂には武力衝突に至りました。クロアチア防衛評議会（HVO）は、ボシュニャク人市民に対して強制収容所への連行など、多くの蛮行を行いました。ストゥプニ・ドやアフミチでの虐殺は、その残虐性を象徴する出来事です。

1994年、クロアチア本国からの支援が国際社会から非難を浴びるようになり、アメリカ合衆国の仲介によってワシントン合意が成立。ヘルツェグ＝ボスナ・クロアチア人共和国は消滅し、ボスニア・ヘルツェゴビナ連邦に組み込まれました。その後、ローマ教皇ヨハネ・パウロ2世とアメリカ合衆国政府からの要請を受け、ボバンは政界を引退しました。

紛争終結後と死

1997年4月7日、ボバンは脳梗塞で倒れ、3日後にモスタルの病院で死去しました。葬儀にはクロアチアの要人が多数参列しましたが、外国からの首脳の参加はありませんでした。ボバンの死については、戦争犯罪人としての訴追を逃れるための偽装ではないかという噂も囁かれています。

マテ・ボバンの生涯は、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争という激動の時代を象徴するものであり、その行動は今なお議論の対象となっています。

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