マナ (食物)

マナとは：旧約聖書に記された奇跡の食物

マナ（ヘブライ語: מן‎, アラビア語: مان‎）は、旧約聖書の「出エジプト記」に登場する、神がイスラエルの民に与えたとされる奇跡的な食物です。イスラエルの民がシンの荒野で食料に困っていた際、神がモーゼの祈りに応え、天から降らせたとされています。人々はそれを「これは何だろう？」と口にしたことから、ヘブライ語で「これは何だろう」を意味する「マナ」と呼ばれるようになりました。

マナの起源と特徴

聖書には、神が「見よ、わたしはあなたたちのために、天からパンを降らせる」と述べた記述があり、マナは神が創造した超自然的なものとされています。40年間もの間、イスラエルの民を飢えから救い続けたという事実も、マナが自然のものではないことを示唆しています。

マナは、露が乾いた後に残る薄い鱗のような、あるいは霜のような外見をしています。コエンドロの実のように白く、蜜を入れたせんべいのように甘い味がすると伝えられています。毎日早朝に各自が一定量を採取する必要があり、気温が上がると溶けてしまうという性質を持っていました。また、余分に採取したり、翌日まで残したりすると腐敗して悪臭を放つため、必要な量をその日に食べる必要がありました。ただし、安息日にはマナが降らないため、前日には二倍の量を集めることが許されていました。イスラエルの民は、約束の地カナンに到着するまでの40年間、このマナを食料としていました。

マナの比定：様々な解釈

マナは、神の奇跡を信じる人々にとっては文字通り神が与えた奇跡の食物ですが、そうでない人々からは、その正体を自然現象や物質に求める様々な解釈がなされています。聖書の記述や、マナを壺に入れて持ち歩いていたという記述から、何らかの固形の自然物であるという見方が一般的です。

キノコ説

キノコがマナであるという説は、露が降りた後にキノコが突然発生することがあるという事実に基いています。この説を支持する学者も存在し、ジョン・アレグロは著書『聖なるキノコと十字架』でこの説を展開しました。

穀物説

小麦、蕎麦、米などの穀物であるという説も存在します。穀物の中には成長が早いものがあり、粉末状にすれば様々な調理法が可能になるため、この説も有力視されています。

果実説

果物や木の実がマナであるという説もあります。西アジア（ウイグルやカザフスタン）はリンゴの原産地として知られており、この地域で採取できる果物がマナの起源である可能性も指摘されています。

樹液説

ギョリュウの樹液を固めたものがマナであるという説も有力です。ギョリュウはシナイ半島にも多く生息しており、その樹液が甘く、乾燥すると固まる性質を持っていることから、マナの正体として考えられています。

カイガラムシの排泄物説

カイガラムシなどの昆虫が排泄する甘露が乾燥したものがマナであるという説もあります。これらの昆虫は植物の篩管液を吸って生活しており、篩管液に含まれる糖分を過剰に摂取すると、余分な糖分を水分とともに排泄します。乾燥地帯では、この甘露がすぐに乾燥し、植物の下に霜のように堆積するため、これを採取して食用とすることができます。実際に、イランでは、この乾燥した甘露を採取して不純物を取り除き、「ギャズ」というヌガーのような菓子を作ることが知られています。西アジアの遊牧民の間でも、甘露を食用にする例が報告されています。

マナの多様な解釈

マナは、その起源や性質について、様々な解釈がなされています。神の奇跡を信じる人々にとっては、天から降った奇跡の食物ですが、科学的な視点からは、自然界に存在する様々な物質がマナの起源として考えられています。

マナの謎は、今もなお解き明かされていません。しかし、その背後にある歴史や文化、そして神話的な側面は、多くの人々の興味を惹きつけています。マナに関する探求は、単なる食料の起源を解き明かすだけでなく、人間の信仰や文化、そして自然との関わりについて深く考えるきっかけを与えてくれるでしょう。

脚注

出エジプト記16章
ジョン・アレグロ『聖なるキノコと十字架』

参考資料

MANNA - JewishEncyclopedia.com
CATHOLIC ENCYCLOPEDIA: Manna
* 出エジプト記【60分でわかる旧約聖書】中川健一 ハーベスト・タイム・ミニストリーズHarvest Time Ministries

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