マナの収集 (ティントレット、サン・ロッコ大同信会)

ティントレット作『マナの収集』

『マナの収集』は、ルネサンス期のヴェネツィア派の巨匠ティントレットが1577年に制作した油彩画です。この作品は、『旧約聖書』の「出エジプト記」に記されたマナの奇跡を題材としています。

主題

エジプトを脱出したユダヤの民は、シンの荒野で飢えに苦しんでいました。彼らはモーセとアロンに対し、エジプトでの生活を懐かしみ、荒野で餓死することを嘆きました。この時、神はモーセに「天からパンを降らせる」と告げ、その言葉通り、翌朝には露とともにマナが降りました。マナはコエンドロの実のように白く、蜜のように甘い味がしましたが、太陽が昇ると溶けてしまうため、人々は急いで集める必要がありました。ただし、6日目には2倍の量を集め、7日目の安息日に備えることができました。モーセは神の言葉に従い、マナを壺に保管し、契約の箱の前に置きました。ユダヤの民は、カナンの地に着くまで40年間、このマナを食べ続けたとされています。

制作経緯

ティントレットは、1564年から1587年という長期間にわたり、サン・ロッコ大同信会とその付属教会の装飾に携わりました。彼はイエス・キリストや聖母マリアの生涯、『旧約聖書』などをテーマに、計68点もの作品を制作しました。

特に、同信会館のサラ・スペリオーレ（上階大広間）の装飾は、1575年から1581年にかけて行われました。この大広間は長年放置されていましたが、1574年に天井の装飾が決定されました。ティントレットは1575年に『青銅の蛇』の制作を始め、その後、『マナの収集』と『岩から水を湧き出させるモーセ』などを制作しました。

ティントレットは、これらの作品を同信会への愛情と聖ロクスへの崇敬の念から、ほぼ無償で制作しました。彼は制作費用の代わりに、絵具と年間100ドゥカートの年金を要求しました。この時期、ティントレットはドゥカーレ宮殿の装飾も手掛けていましたが、そちらは弟子に任せ、自身はサラ・スペリオーレの制作に専念しました。

作品の特徴

『マナの収集』では、天から降るマナを集めるユダヤの人々が描かれています。彼らはオリーブの木陰に天幕を張り、過酷な日差しを避けています。空には黒雲が立ち込め、マナを降らせています。人々は籠を掲げてマナを集めていますが、天幕は降り積もるマナの重みで垂れ下がっています。画面右端には、鑑賞者に背を向けて立つモーセが描かれ、左端には籠を持つ半裸の人物が配置され、構図のバランスを取っています。

ティントレットは、マナをホスチア（聖体）として描いており、旧約聖書のマナの奇跡を、新約聖書のパンを配るキリストの奇跡の予型として解釈しています。また、この作品は、サン・ロッコ大同信会の慈善活動を暗示しており、貧しい人々を救うという同信会の精神が反映されています。

別バージョン

サン・ジョルジョ・マッジョーレ聖堂には、同じ主題の別バージョンが所蔵されています。この作品は、ティントレットの晩年の作で、マナを集めるシーンではなく、マナを製粉する人々の姿が描かれています。

まとめ

『マナの収集』は、ティントレットの卓越した技術と宗教的な解釈が融合した傑作です。旧約聖書の物語を、キリスト教的な視点と同信会の慈善活動という視点を交えながら、力強く、そして感動的に描いています。

この作品は、サン・ロッコ大同信会に現在も所蔵されており、訪れる人々を魅了し続けています。

ギャラリー

（画像ギャラリーは省略）

脚注

（脚注は省略）

参考文献

『西洋絵画作品名辞典』黒江光彦監修、三省堂（1994年）
ジェイムズ・ホール『西洋美術解読事典』高階秀爾監修、河出書房新社（1988年）

外部リンク

* サン・ロッコ大同信会公式サイト, 参事会員室

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