ドゥカート

ドゥカート（ducat）は、中世後期から20世紀後半までヨーロッパで広く使用された硬貨です。その歴史は長く、多様な金属で様々なドゥカートが作られました。特にヴェネツィア共和国のドゥカート金貨は、中世のヒュペルピュロンやフローリン、現代の英ポンドや米ドルのように国際通貨として広く受け入れられていました。

ドゥカートの起源

「ドゥカート」という言葉は、中世ラテン語の「ducatus」（公爵の、公爵領の、公爵の硬貨の意）に由来します。最初にこの硬貨が発行されたのは、シチリア王ルッジェーロ2世が統治していたプッリャ公国（公爵領）だと考えられています。1140年、彼はキリスト像と「キリストよ、汝が統べるこの公爵領を汝に捧げん」という文句が刻まれた硬貨を鋳造しました。

ヴェネツィア共和国のドージェ、エンリコ・ダンドロは、ルッジェーロ2世の硬貨から影響を受けたドゥカート銀貨を導入しました。しかし、ヴェネツィアのドゥカート金貨の重要性が増すにつれて、「ドゥカート」という言葉は金貨のみを指すようになり、銀貨はグロッソと呼ばれるようになりました。

ヴェネツィア共和国のドゥカート金貨

13世紀のヴェネツィアの貿易は、東方から買い付けた商品をアルプス以北で販売する形態でした。彼らは買い付けの際、東ローマ帝国の金貨を使用していましたが、東ローマ皇帝ミカエル8世パレオロゴスが1282年のシチリアの晩祷と呼ばれる暴動を支援した結果、ヒュペルピュロンの価値が低下しました。度重なるヒュペルピュロンの価値低下を受け、1284年、ヴェネツィア共和国大評議会は純金製の独自の硬貨を発行することにしました。

フィレンツェ共和国とジェノヴァ共和国は、1252年にそれぞれフィオリーノ金貨とジェノヴィーノ金貨を発行しており、特にフィオリーノ金貨はヨーロッパの金貨のスタンダードになっていました。ヴェネツィアはドゥカートをフィオリーノのサイズと重量に合わせましたが、両国の度量衡制度が異なっていたため、重量にはわずかな差がありました。ヴェネツィアのドゥカートは99.47%の純金3.545グラムを含み、当時の冶金技術で精製できる最高峰の純度でした。

ドゥカート金貨はドゥカート銀貨、そして東ローマの銀貨に由来します。表面にはヴェネツィア共和国の守護聖人である聖マルコの前にひざまずくドージェの姿が描かれています。聖マルコは福音書を持ち、ドージェにゴンファローネを授けています。銘文「S M VENET」は「ヴェネツィアの聖マルコ」の頭字語で、「MICAEL STEN」はドージェの名前（ミケーレ・ステーノ）を表しています。裏面には、星々を背景に立つキリストが楕円の枠内に描かれています。裏面の銘文はルッジェーロ2世のドゥカートに刻印されているものと同様です。

後継のドージェたちもドゥカートの鋳造を続け、表面の名前だけを変更しました。1400年代にはドゥカートの価値は銀貨換算で124ヴェネツィアソルドと安定していました。これにより、「ドゥカート」という言葉は金貨そのものだけでなく、この量の銀貨を表す言葉としても使われるようになりました。しかし、1567年のイングランドとスペインの衝突により金の価格が上昇し、この均衡は崩れました。この頃からドゥカートは「造幣所のドゥカート」（ducato de zecca）と呼ばれるようになり、短縮されて「zecchino」、さらに転訛して「Sequin」と呼ばれるようになりました。

レオナルド・ロレダンは新たに2分の1ドゥカートを鋳造し、次のドージェであるアントニオ・グリマーニは4分の1ドゥカートや105ドゥカートなど様々な硬貨を鋳造しました。これらの硬貨はすべて1284年の元のドゥカートのデザインと重量を受け継いでいました。西洋の鋳造貨幣で鋳造時期の刻印が一般的になった後も、ヴェネツィアは1797年のナポレオン・ボナパルトへの降伏まで日付のないドゥカートを鋳造し続けました。

ヴェネツィア・ドゥカートの模倣品

コムーネ・ディ・ローマが金貨を導入する際、フィオリーノやドゥカートは模倣する良い見本と考えられました。しかし、元老院の経済を握っていたフィレンツェ人たちは、彼らの硬貨が模倣されることを防ごうとしました。その結果、ローマ人の硬貨は、聖ペテロの前にひざまずく元老院議員が表面に、星々を背景に立つキリストが裏面に描かれた、ヴェネツィアのドゥカートを模倣したものとなりました。

教皇たちは後にこのデザインを改めましたが、1500年代まで重量とサイズが同じドゥカートを鋳造し続けました。ヴェネツィア・ドゥカートの模倣品の多くは、ヴェネツィアが買い付けで多くのお金を使っていたレバントで製造されました。聖ヨハネ騎士団は、表面に総長のデュードネ・ド・ゴゾンが聖ヨハネの前でひざまずく姿、裏面にキリストの墓に座る天使を描いたドゥカートを鋳造しました。しかし、後の総長たちはヴェネツィアのドゥカートをより正確に模倣することに利点を見出し、ロドス島やマルタ島で模倣品を鋳造しました。

ジェノヴァの商人たちはさらに巧妙な模倣品を作りました。彼らはヒオス島でドゥカートの模倣品を鋳造しましたが、技術的な精巧さでしか本物と区別がつかないほどでした。これらの質の低い模倣品は、貨幣の純度によって高い評価を得ていたヴェネツィアにとって問題でした。ミティリーニ、ポカイア、ペラなどの都市でジェノヴァの商人たちが鋳造したドゥカートがほとんど現存しないことから、ヴェネツィア人がこれらの模倣品を発見し次第、溶かして処分していたことが推測されます。

ハンガリー王国のドゥカート

ヴェネツィア共和国は活発な貿易国でしたが、西ヨーロッパでは主に貿易品を販売しており、硬貨を使う機会が少なかったため、一般的にはドゥカートよりもフローリンが多く使われていました。しかし、ハンガリー国王カーロイ1世が金貨の鋳造を始めた際、模倣したのはヴェネツィアのドゥカートでした。彼の息子のラヨシュ1世は、ドゥカート風の聖ヨハネの立ち姿をフローリン風の聖王ラースローの立ち姿に変更し、フィレンツェのユリを紋章に変更しましたが、金の純度は維持しました。

1400年代には、純金で作られたフローリンをドゥカートと呼び、価値の低い模造フローリンをグルデンやゴールドグルデンと呼んで区別しました。1524年、神聖ローマ皇帝カール5世はヴェネツィア共和国のドゥカートをグルデンよりも39％高い価値で帝国内の標準通貨とした際に、この区別を認識していました。弟で後の後継者となるフェルディナント1世は、1526年にハンガリーの王位を継承した際、このシステムをハンガリーにも導入しました。これにより、ハンガリーの金貨の中でも純度の高いものがドゥカートと呼ばれるようになりました。これらの金貨は純度が高いためヨーロッパ中で受け入れられ、スコットランド大蔵卿は、国王さえ賭博にこれらのドゥカートを使用していた記録を残しています。

ハンガリーはドゥカートの鋳造を続け、98.6%の純金3.5グラムを使用していました。ヴェネツィアのドゥカートが一定のデザインを守り続けたのとは対照的に、ハンガリーのドゥカートは裏面の紋章が状況に応じて変更されました。1470年、マーチャーシュ1世は裏面の紋章を聖母マリアに置き換えました。ハンガリー王国は1915年まで、オーストリアの統治下でもドゥカートの鋳造を続けました。これらは貿易用の硬貨として使われ、後年再鋳造されたものもあります。

オランダ共和国のドゥカート

オランダの反乱の結果、オランダ共和国は国内7州の通貨管理を可能としました。しかし、1583年にアンジュー公フランソワの統治が破綻し、硬貨に名前を付けるべき憲法上の統治者がいなくなりました。彼らは、広く受け入れられている外国の硬貨を模倣するというこの地域の伝統に戻りました。このケースでは、もはや使われなくなった硬貨を模倣することで政治的な問題を回避しました。カトリック両王が発行した金貨はドゥカートを模倣したものであり、オリジナルと同様にドゥカートと呼ばれました。彼らはハンガリー・ドゥカートを模倣した硬貨も発行しましたが、これ以降のオランダ共和国の貨幣は、この硬貨の強い影響を受けることになります。オランダが世界規模の覇権的な貿易国家になるにつれて、これらのドゥカートの影響力も国際的になりました。

オランダで鋳造されるハンガリー風のドゥカートは、最初は模倣の元となったハンガリー・ドゥカートと同様に、表面に王冠と戦斧を持った聖王ラースローの立ち姿が描かれていました（ただし、銘は別人の名前で刻まれていました）。裏面のデザインはマーチャーシュ1世が変更する前のハンガリー・ドゥカートに倣い、鋳造した州の紋章が描かれていました。表面のデザインは次第に、国内7州を表す7本の矢と剣を持つ騎士の立ち姿へと変化しました。「CONCORDIA RES PAR CRES」という銘は、サッルスティウスの言葉「小さきものも調和によって成長し、偉大なるものも不和によって滅ぶ」の一部です。裏面には、「地域の法に則ったベルギーの連邦州の金貨」という意味の銘文が刻まれています。ナポレオン時代には、バタヴィア共和国とルイ・ボナパルトがこのデザインのドゥカートの鋳造を続けました。

ドゥカートの普及

1400年代、西ヨーロッパの国際的な貿易商たちは、業務で使う通貨としてフローリンよりもドゥカートを好むようになっていきました。統治者が貨幣を改める際、ほとんどの場合ドゥカートがモデルとして使われました。マムルーク朝のアシュラフィ、オスマン帝国のアルトゥン、カスティーリャ王国のドゥカートなどがその例です。

マクシミリアン1世の貨幣改革により、1511年にオーストリアでのドゥカート金貨の鋳造が始まりました。この金貨は1857年に法定通貨としての地位を失いますが、オーストリアは第一次世界大戦の影響で1915年に終了するまで、ドゥカートを貿易硬貨として鋳造し続けました。また、それ以降も「1915」の銘が入ったドゥカートの再鋳造を現在に至るまで続けています。しかし、スペインのアメリカ大陸植民地で豊富な銀資源が発見されると、スペインドルが国際貿易で使われる支配的な通貨としてドゥカートに取って代わりました。

1913年ごろ、ドゥカート金貨の価値は「9シリング4ペンスと同等、または2ドルより少し多い。ドゥカート銀貨はこの半分の価値」とされていました。現在でも、いくつかの国の造幣局は投資用やコレクション用のドゥカートを鋳造・販売しています。

ドゥカートの一覧

オーストリア：オーストリア造幣局は現在も1ドゥカート、4ドゥカートの鋳造を続けています。
東ローマ帝国：バシリコンという独自のヴェネツィアドゥカート銀貨を鋳造していました。
クロアチア
チェコスロバキア
チェコ共和国：現在も金のレプリカを鋳造しています（1、4、40、100ドゥカート）。
デンマーク
ドイツと神聖ローマ帝国：多くの都市や、1871年以前の公国で鋳造されていました。アウクスブルク、ハンブルク（多くのハンザ都市が独自のドゥカートを発行していました）、ザクセンなど。
ハンガリー：ハンガリー造幣局は2、3、4、6ドゥカート品質の記念硬貨を現在も鋳造しています。
イタリア：ミラノ公国、教皇領、サヴォイア公国、両シチリア王国、ウルビーノ公国、ヴェネツィア共和国、ジェノヴァ共和国など。
オランダ：1586年に初めて鋳造したものと同じ重量、組成、デザインのドゥカート金貨、ドゥカート銀貨を現在も発行しています。
ポーランド（歴史的なRed złoty）
ルーマニア：トランシルヴァニア、ワラキア。
ロシア：広く流通していたオランダのドゥカートを模倣したものが多く、独自デザインのものもわずかに発行されました。
スコットランド
セルビア王国
スペイン：フランドル、ナポリ王国、新大陸を含むすべての領土。
スウェーデン
スイス：統一以前には、チューリッヒドゥカートなどのドゥカートを鋳造していました。
* ユーゴスラビア王国

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