マハージャニー文字

マハージャニー文字：インド商人の速記文字

マハージャニー文字（mahājanī）は、インド北西部、特にラージャスターン州でかつて広く用いられていた独自の文字体系です。ブラーフミー系文字に分類され、ナーガリー文字と系統的なつながりを持つ一方、商人階級によって商業目的で用いられたという歴史的背景から、独特の特徴を備えています。

簡略化された文字体系

マハージャニー文字の最大の特徴は、その簡潔さです。速記を目的として発展したため、母音記号を省略し、文字同士の結合もありません。アヌスヴァーラ（鼻音記号）やヴィラーマ（子音終止記号）といった、ナーガリー文字に見られる表記上の細かな要素も存在しません。基本的な母音（a、i、u、e、o）は存在しますが、それらを明示的に表記する必要がないよう、文字自体が設計されています。この簡略化された体系により、迅速な筆記が可能となり、商業取引の現場で重宝されました。

商人階級とマハージャニー文字

マハージャニー文字は、主にマールワール地方の商人階級によって使用されていました。金融や流通といった商業活動において、迅速な記録や伝達手段として欠かせない役割を果たしていたと考えられています。そのため、文字の形状は、正確な言語表現よりも、書きやすさ、読みやすさが優先されたと推測できます。現代においては、その使用は衰退していますが、完全に消滅したわけではなく、歴史的遺産として残されています。

Unicodeへの登録

マハージャニー文字は、その歴史的・文化的意義から、2014年にUnicode 7.0で正式に採用されました。追加多言語面（SMP）のU+11600～U+1165Fのコードポイントが割り当てられ、デジタル環境での活用が可能となっています。これは、文字体系の保存と研究、そしてデジタルアーカイブへの貢献という点において重要な一歩です。

参考文献

田中敏雄 著「インド系文字の発展」、西田龍雄 編『世界の文字』大修館書店、1981年、181-210頁。
Shackle, Christopher (2003). “Panjabi”. In George Cardona; Dhanesh Jain. The Indo-Aryan Languages. Routledge. pp. 581-621. ISBN 9780415772945

外部リンク

* 『マハージャニー文字』地球ことば村・世界の文字。http://www.chikyukotobamura.org/muse/wr_sasia_37.html

まとめ

マハージャニー文字は、インドの商人階級によって生み出され、使用されてきた独自の文字体系です。簡潔さを重視したその設計は、商業活動における迅速な情報伝達に役立ちました。Unicodeへの登録により、現代においてもその存在がデジタル空間で維持され、研究や学習の対象として、そしてインドの歴史文化の一端として、その価値が再認識されています。

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