マラズギルトの戦い

マラズギルトの戦い：東ローマ帝国の転換点

1071年8月26日、アナトリア東部のマラズギルトで、東ローマ帝国とセルジューク朝の間で激戦が繰り広げられました。この戦いは、セルジューク朝の決定的な勝利となり、東ローマ帝国に深刻な影響を与え、その後の歴史を大きく変えることになりました。

戦闘の背景

11世紀、セルジューク朝は急速に勢力を拡大し、イラン全土を支配下に置きました。第2代スルタンのアルプ・アルスラーンは、グルジア、シリアへと進出し、アルメニアにまでその勢力を伸ばしました。これにより、東ローマ帝国との対立が深まり、マラズギルトの戦いへと繋がります。

東ローマ帝国は、中世において強大な勢力を誇っていましたが、コンスタンティノス9世や10世の無能な統治により衰退していました。イサキオス1世の短期間の軍事改革は、帝国の崩壊を一時的に食い止めましたが、根本的な問題は解決されませんでした。

1068年、ロマノス4世が皇帝となると、短期間の軍事改革を行い、セルジューク朝に対する遠征を試みます。しかし、遠征は失敗に終わり、アルプ・アルスラーンは東ローマ帝国との和平を模索するようになりました。両者の間で一時的な和平条約が締結されましたが、ロマノスはセルジューク朝の勢力を警戒し、大規模な遠征を計画しました。

戦闘の準備

ロマノス4世は、約4万から7万の兵力を率いて遠征を開始しました。軍の主力は、東西の職業軍人部隊と多くの傭兵で構成されていました。しかし、アナトリアからの徴募兵は戦闘から逃走し、軍の士気は高くありませんでした。ロマノスは、豪華な荷物で軍を慰撫しようとしましたが、フランク人傭兵の略奪行為により、住民の不満が高まりました。

東ローマ軍は、ハリュス川で最初の休息を取り、将軍たちの間で意見が分かれました。一部の将軍は、セルジューク軍が態勢を整える前に攻撃することを主張しましたが、他の将軍は、陣地を強化することを主張しました。最終的には進軍が決定し、ヴァン湖を目指して進軍を開始しました。ロマノスは、アルプ・アルスラーンは遠くにいるか、全く来ないだろうと楽観視していましたが、実際にはアルプ・アルスラーンは、3万の騎兵を率いて近くに潜んでいました。

ロマノスは、軍を分割し、イオセフ・タルカネイオテスに一部の軍を率いてヒラート要塞を攻略させ、自身は残りの軍を率いてマラズギルトを目指しました。この軍の分割により、両軍の戦力は2万ほどになりました。タルカネイオテスの軍の行方は不明ですが、一部の資料によれば、セルジューク軍によって壊滅させられたと言われています。

戦闘の経過

8月23日、ロマノス軍はマンジケルトを占領しました。セルジューク軍は、弓兵による激しい反撃を行いました。

翌日、東ローマ軍は兵糧調達に出かけた際、セルジューク軍と遭遇し、マンジケルトに撤退しました。ロマノスは、これをアルスラーンの全軍だとは信じず、少数の騎兵を送りましたが、全滅してしまいました。

8月25日、ロマノスはセルジューク側からの和平交渉を拒否しました。ロマノスは、セルジューク朝との決戦で勝利することを望んでいました。また、和平交渉による一時的な猶予は、帝国にとって不利益になると考えました。この日、東ローマ軍にいたトルコ人傭兵が、セルジューク軍に脱走する事件も発生しました。

8月26日、東ローマ軍は戦闘隊形を組んでセルジューク軍に攻撃を開始しました。東ローマ軍の左翼はブリュエンニノスが率い、右翼はテオドシウス・アリュアッテスが率いました。中央はロマノス自身が率い、主力後方にはアンドロニコス・ドゥーカス率いる予備兵団が配置されました。ドゥーカスは皇帝の政敵であり、この配置は愚策でした。セルジューク軍は、三日月型の陣形をとり、弓[[騎兵]]が後退しながら矢を放つ、遊牧民の伝統的な戦法で東ローマ軍を攻撃しました。東ローマ軍は、セルジューク軍の弓攻撃に大きな打撃を受け、両翼はほぼ壊滅状態に陥りました。セルジューク軍が白兵戦を避けたため、ロマノスは日没と共に退却を命じざるを得ませんでしたが、右翼には命令がうまく伝わりませんでした。また、ドゥーカスは皇帝を見捨て、戦場から撤退しました。東ローマ軍は完全に混乱し、セルジューク軍の猛攻を受け、壊滅的な被害を受けました。ロマノス自身も負傷し、捕虜となりました。

捕虜となった皇帝

捕虜となったロマノス4世は、アルプ・アルスラーンの前に引き出されました。アルスラーンは、ロマノスを丁重に扱い、戦闘前に提案した和平条件を再び提案しました。ロマノスは、領土の一部をセルジューク朝に割譲すること、身代金を支払うことなどを条件に解放されました。しかし、帰国後、ロマノスは失脚し、目をつぶされ、追放された後、死亡しました。

戦いの結果と影響

マラズギルトの戦いは、東ローマ帝国にとって破滅的な敗北であり、アナトリアでの影響力を大きく低下させました。この敗北により、テュルク系民族の進出が加速し、アナトリアはイスラム化されました。ルーム・セルジューク朝が成立し、後のオスマン帝国の勃興へと繋がる遠因となりました。

東ローマ帝国は、この戦いの結果、西ヨーロッパに救援を要請し、これが十字軍遠征のきっかけとなりました。マラズギルトの戦いは、東ローマ帝国衰退の象徴的な出来事であり、その後の歴史に大きな影響を与えました。

東ローマ帝国はこの敗北で、アナトリアという主たる兵力徴収地を失い、その軍事力は著しく低下しました。この戦いにより、東ローマ帝国は二度と強大な軍事勢力になることはありませんでした。この戦いの100年後にはミュリオケファロンの戦いも起こり、東ローマ帝国の衰退をさらに加速させました。

後世の歴史家は、マラズギルトの戦いを東ローマ帝国の転換点として捉えており、この戦いがなければ、東ローマ帝国の歴史は大きく変わっていたと考えられます。

もう一度検索