マリア・テレサ・デ・ボルボーン・イ・バリャブリガの肖像

肖像画『マリア・テレサ・デ・ボルボーン・イ・バリャブリガの肖像』

フランシスコ・デ・ゴヤによる『マリア・テレサ・デ・ボルボーン・イ・バリャブリガの肖像』は、1783年に制作されたスペインのロマン主義の傑作であり、現在はワシントンD.C.のナショナル・ギャラリー・オブ・アートに所蔵されています。この作品は、スペイン国王フェリペ5世の孫娘にあたるマリア・テレサを描いており、彼女の兄の肖像画『少年ルイス・マリア・デ・ボルボーン・イ・バリャブリガの肖像』の対作品として知られています。

制作の背景

マリア・テレサは1780年、ドン・ルイス・アントニオ・デ・ボルボーン親王と下級貴族の女性マリア・テレサ・デ・バリャブリガとの間に生まれました。家庭環境は複雑で、父親は兄カルロス3世との不仲や身分違いの結婚により王室から疎外されました。その結果、彼女と妹は幼少期にサン・クレメンテ修道院で育てられることになりました。しかし、1797年にカルロス4世の宰相マヌエル・デ・ゴドイと結婚することで、彼女は王族の一員として復帰します。

作品の魅力

この肖像画は、4歳という幼さにも関わらず、堂々とした姿勢を持つマリア・テレサを描いています。彼女はグレドス山脈を臨む宮殿のテラスに立ち、大きな灰色の瞳が印象的です。着ている服は愛らしいが、どこか大人びた印象を与えており、スカイブルーのボディスにロイヤルブルーのリボン、ピンクのバラがあしらわれた白いボンネットが特徴的です。彼女の足元には小型犬が寄り添い、背景には緑の木々や山々が描かれています。

ゴヤの技法は、彼女の服や表情において非常に繊細で、特に長い透明なマンティーリャの表現は高い技術を感じさせます。またやや低い視点で描かれたことで、子供の純真さとは裏腹に、威厳が強調されています。このような描写は、ベラスケスの影響を色濃く感じさせるもので、子供のサッパリとした感情ではなく、成長したときの権威を意識させる意図があるようです。

来歴

肖像画は、マリア・テレサとマヌエル・デ・ゴドイの間に生まれた一人娘に相続されました。その後、数世代を経て、1957年にはアメリカのウィルデンシュタイン・カンパニーに売却され、最終的には慈善家アリサ・メロン・ブルースによって購入されました。彼女の死後、1970年にナショナル・ギャラリー・オブ・アートに遺贈され、今に至るまで多くの人々に愛され続けています。

この肖像画は、ただの絵画としてだけでなく、当時のスペインの歴史やゴヤの芸術観を深く考えさせられる作品です。特にマリア・テレサの存在は、王室に復帰する際の背景が色濃く反映されており、一見無邪気に見える彼女の表情には、当時の政情や家族事情が投影されているようにも感じられます。

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