マリア・トールチーフ

マリア・トールチーフ：アメリカ・バレエ史に輝く偉大なプリマバレリーナ

マリア・トールチーフ（1925年1月24日 - 2013年4月11日）は、20世紀を代表するアメリカ人バレリーナです。オクラホマ州フェアファックスに生まれた彼女は、アメリカ先住民オーセージ族の酋長を父に、スコットランド系とアイルランド系の血を引く白人の母を持つという、独特の出自を持っていました。幼少期はカトリック系の学校に通い、その後一家はカリフォルニア州ビバリーヒルズに移住。そこで、彼女は伝説的なバレエ教師ブロニスラヴァ・ニジンスカに師事し、5年間の研鑽を積みました。ニジンスカの厳格ながらも情熱的な指導は、トールチーフのバレエ人生の礎となりました。

17歳でプロのバレリーナを目指し、自ら「マリア・トールチーフ」という芸名を名乗りニューヨークへ。オーディションを経て、バレエ・リュス・ド・モンテカルロに入団すると、その卓越した才能はすぐに開花しました。

彼女のキャリアにおいて最も重要な人物の一人が、グルジア出身の著名な振付家ジョージ・バランシンです。バランシンは、トールチーフのために数々の作品を創作し、二人は1946年に結婚しました。二人の関係は芸術的なパートナーシップと情熱的なロマンスが複雑に絡み合ったものでした。しかし、1952年には離婚。子供はいませんでした。

1947年から1960年まで、トールチーフはニューヨーク・シティ・バレエ団のプリマバレリーナとして君臨しました。バランシンは同バレエ団の首席振付家でした。この時代、彼女はバランシン振付の数々の名作で主役を踊り、世界中から称賛を浴びました。特に、1949年の『火の鳥』でのパフォーマンスはパリ・オペラ座公演にも繋がり、彼女の国際的な名声を確固たるものにしました。また、バランシン版『くるみ割り人形』の金平糖の精を演じた最初のダンサーとしても知られています。

輝かしい功績に対し、1953年には、当時のアメリカ合衆国大統領ドワイト・アイゼンハウアーから「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」に選出されました。世界中を舞台に活躍したトールチーフでしたが、1965年に引退。しかし、彼女のバレエ界への貢献はそこで終わりませんでした。

1981年には、実妹のマージョリー・トールチーフと共にシカゴ・シティ・バレエ団を設立。1987年まで芸術監督を務め、次世代のダンサー育成にも尽力しました。妹のマージョリーもまた、著名なバレリーナとして、アメリカン・バレエ・シアターなどで活躍し、1957年にはアメリカ人として初めてパリ・オペラ座バレエ団のエトワールに昇格した経歴を持つ人物です。

私生活では、1956年にシカゴ出身の建築家ヘンリー・パスチェンと再婚。2003年にヘンリーが亡くなるまで連れ添い、一人娘のエリスをもうけました。エリスは詩人として成功を収めています。

88歳でこの世を去ったマリア・トールチーフ。彼女の芸術性と情熱は、数々の舞台作品を通して、そして彼女の創設したバレエ団を通して、現在も世界中のバレエダンサーたちに大きな影響を与え続けています。また、漫画家山岸涼子の作品『黒鳥-ブラックスワン』にも、彼女の人生が題材として取り上げられています。彼女が残した輝かしい足跡は、これからもバレエ史に燦然と輝き続けるでしょう。

もう一度検索