マリア・ホセファ内親王の肖像

『マリア・ホセファ内親王の肖像』

フランシスコ・デ・ゴヤによる『マリア・ホセファ内親王の肖像』は、1800年に制作された油彩画で、スペインロマン主義の金字塔とされる作品です。現在、マドリードのプラド美術館に所蔵されており、ゴヤの代表作『カルロス4世の家族』の油彩習作の一部です。この作品は、スペイン国王カルロス3世の娘であるマリア・ホセファ・デ・ボルボーン・イ・サホニアを描いています。

人物について

マリア・ホセファは1744年に生まれ、カルロス3世とポーランド王アウグスト3世の娘マリア・アマーリアとの間に誕生しました。彼女はカルロス4世の姉にあたり、マリア・ルイサ勲章やオーストリアの星十字勲章を受賞しています。彼女は生涯独身で、1801年に亡くなりました。彼女の遺体はマドリードのサンタ・テレサ修道院に埋葬されていますが、1869年に修道院が取り壊された後、エル・エスコリアル修道院に移されました。

制作経緯

ゴヤは1799年にスペインの主席宮廷画家に任命され、その翌年の1800年春から夏にかけて『カルロス4世の家族』の制作に取り掛かりました。その過程で、彼は10点の油彩習作を描き、その一つがこの肖像画です。描かれた人物は、国王カルロス4世の家族やその親族であり、特にマリア・ホセファもその中に含まれています。

作品の特徴

この肖像画では、マリア・ホセファが他の習作と同じポーズをとっており、彼女の外見や動作が忠実に再現されています。彼女は極楽鳥の羽を用いた頭飾りを身に着け、マリア・ルイサ勲章の青と白のサッシュを右肩に掛けています。その装飾物は当時の貴族の服装を反映しています。また、彼女の右のこめかみには時代遅れとなった付け黒子が見ることができ、左胸には星十字勲章も見ることができます。

マリア・ホセファの顔立ち、特に長く尖った鼻は彼女の父カルロス3世の特徴を受け継いでいます。彼女は少し顔を斜めに向け、大きく開いた瞳で鑑賞者を見つめており、その視線には強い意志が感じられます。彼女の表情は神経質であり、好奇心の強い性格を表しているのかもしれません。

画面の背景は黒く塗りつぶされ、彼女の姿が浮かび上がるように描写されています。ゴヤは肘や胸のラインをうまく表現し、顔と胸が異なる方向を向いているように見せることで、彼女の心理状態を繊細に描写しています。特に、視線と黒い描線は彼女の強い意志を強調しており、非常に効果的です。

来歴

この肖像画は王室コレクションの一部であり、1834年の王室美術館の目録にも『カルロス4世の家族』と共に記載されています。このことから、プラド美術館に加わったのはそれ以前のことであると考えられています。プラド美術館では、制作された習作の中から5点が収蔵されており、その中にはこの作品も含まれています。

まとめ

『マリア・ホセファ内親王の肖像』は、ただ美しい似顔絵であるだけでなく、ゴヤの技量と、当時のスペイン王室の人々の複雑な感情と歴史を物語っています。目的に応じた表現や技術が駆使された本作は、今後も見る者に多くの思索を促すことでしょう。

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