マリウス・セスティエ

マリウス・イーリー・ジョゼフ・セスティエ（1861年9月8日 - 1928年11月8日）は、フランス出身の先駆的な撮影監督です。彼は特に、オーストラリアで映画が初めて導入された頃の重要な作品群を手がけた人物として、その名を残しています。

フランスのドローム県ソゼに生まれたセスティエは、リヨンで薬学を修め、薬剤師として働いていました。しかし、初期の映画技術を開発したオーギュストとルイ・リュミエール兄弟に才能を見出され、彼らの発明したシネマトグラフの普及のために雇われます。この役割の一環として、彼はフランス国外でのデモンストレーションを任されることになりました。

1896年6月、セスティエはインドに渡航しました。そして同年7月7日、ボンベイ（現在のムンバイ）のワトソンズ・ホテルで、リュミエール兄弟制作による6本の短編映画を上映しました。これは、インドの歴史上、初めて動画が公開された記念すべき出来事でした。彼はボンベイ滞在中、自らも撮影を試みましたが、未現像フィルムがフランスの税関で開封されるという不運に見舞われ、その品質はリュミエール兄弟の基準を満たさず、公式な作品リストには加えられませんでした。

インドでの任務を終えた後、セスティエはオーストラリアへと向かいます。シドニーに到着した彼は、当地で写真館を営み、特にフィルムの現像に必要な暗室設備を持っていたオーストラリアの写真家、ヘンリー・ウォルター・バーネットと巡り合いました。

セスティエとバーネットは意気投合し、映画事業での協力関係を築きます。1896年9月には、チャールズ・ウェストマコットも加わり、シドニーのピット・ストリートに「サロン・リュミエール」を開設しました。これはオーストラリアで初めて常設された映画上映施設となりました。

二人はまた、リュミエール兄弟の作品を上映するだけでなく、自ら映画の制作も開始しました。最初に制作された短編は、シドニー近郊のマンリーに到着したフェリー「PSブライトン」から乗客が下船する様子を記録したものです。この作品は、オーストラリアで初めて撮影され、そして一般に上映された映画として歴史に名を刻んでいます。

セスティエとバーネットは、その後もシドニーとメルボルンを中心に共同で約19本の映画を制作しました。中でも最もよく知られているのは、1896年のメルボルンカップ競馬を記録した作品です。当時の撮影技術の限界から、この記録は時系列順に並べられた1分間の短いフィルム10本で構成されていました。この記念碑的な映画は、1896年11月19日、メルボルンのプリンセス劇場で初めて公開され、セスティエ自身がその際に解説を行いました。この出来事は、『ジ・エイジ』や『ザ・ブレティン』といったオーストラリアの主要メディアでも大きく報じられ、しばしばオーストラリアにおける最初の映画制作の試みとして言及されています。

ヘンリー・バーネットとの共同事業が終了した後も、セスティエは1897年5月頃までオーストラリア各地を巡り、シネマトグラフの実演や映画上映を続けました。その後フランスに帰国した彼は、リュミエール特許会社の取締役の一員として、引き続き映画産業の発展に貢献しました。

マリウス・セスティエのオーストラリアでの活動は、同国に本格的な映画文化が根付くための重要な第一歩となりました。彼がバーネットと共に撮影し、上映した作品群は、今日ではオーストラリア映画史における貴重な黎明期の記録として高く評価されています。

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