マリー・ド・フランス (1145-1198)

マリー・ド・フランス：宮廷文化を彩った王女

マリー・ド・フランス（1145年 - 1198年）は、フランス王ルイ7世とアリエノール・ダキテーヌの長女として誕生しました。彼女は、フランス王家の血筋を受け継ぎ、後にシャンパーニュ伯アンリ1世の妃となることで、その生涯を歴史に刻みます。

生涯

マリーの誕生は、母アリエノールがクレルヴォーのベルナルドゥスに祈りを捧げた結果とされています。しかし、両親の婚姻は無効となり、マリーと妹アリックスの親権は父ルイ7世に移りました。その後、父はアデル・ド・シャンパーニュと再婚し、マリーはアデルの兄であるアンリ1世と婚約します。1164年、マリーはアンリ1世と結婚し、シャンパーニュ伯妃となりました。

1179年から1181年にかけて、夫アンリ1世が聖地巡礼に出ている間、マリーは伯領の摂政として政務を執り行いました。この時期に父ルイ7世が亡くなり、異母弟フィリップ2世が即位しますが、フィリップ2世は実母アデルの寡婦領を没収し、マリーの長男と婚約していたイザベル・ド・エノーと結婚しました。この出来事は、マリーを始めとする貴族たちの不満を招き、陰謀を企てる動きへとつながります。マリーと弟の関係は後に改善しましたが、夫アンリ1世は聖地から帰国後まもなく亡くなってしまいます。

夫の死後、4人の幼い子供を抱えたマリーは、フランドル伯フィリップ1世との再婚を考えますが、婚約は解消されました。その後、長男アンリ2世が成人するまで再び摂政として伯領を統治し、1190年からはアンリ2世が聖地へ向かったため、再び摂政を務めました。1197年にアンリ2世が亡くなるまで、その地位にあり続け、引退後はモー近郊の修道院で生涯を終えました。

文学の庇護者

マリーは文学の庇護者としても知られ、彼女の宮廷には、アンドレアス・カペラヌス、クレティアン・ド・トロワ、コノン・ド・ベテュヌ、ガス・ブリュレといった文学者たちが集いました。特に有名なのは、クレティアン・ド・トロワに『ランスロまたは荷車の騎士』を依頼したことです。この作品は、宮廷風恋愛をテーマにしていますが、クレティアンはマリーの持ち込んだ主題を気に入らなかったため、未完のまま終わりました。また、カペラヌスには『恋愛論』を執筆させ、この書物を参考に「愛の宮廷」と呼ばれる催しを開きました。この「愛の宮廷」では、男女間の恋愛を疑似裁判にかけ、貴婦人が判決を下すというユニークな形式がとられました。この催しは、騎士道精神や宮廷風恋愛の理想を広める役割を果たし、ヨーロッパの宮廷文化に大きな影響を与えました。マリー自身もフランス語とラテン語を読み書きでき、自身の蔵書も所有していたといいます。

家族との関係

マリーは、異父弟のリチャード1世やジェフリーとの間に深い愛情を育んでいました。1186年にジェフリーが事故死した際には、その葬儀に出席し、リチャード1世からは、彼がオーストリアで捕らわれた際に、その心情を綴った有名な詩を捧げられています。

子女

マリーは、アンリ1世との間に以下の4人の子供をもうけました。

アンリ2世（1166年 - 1197年） - シャンパーニュ伯、エルサレム王
マリー（1204年没） - フランドル伯ボードゥアン（ラテン帝国皇帝ボードゥアン1世）皇后
ティボー3世（1179年 - 1201年） - シャンパーニュ伯
スコラスティク（1219年没） - マコン伯ジェラール2世の妻

マリー・ド・フランスの遺産

マリー・ド・フランスは、その生涯を通じて、政治、文化、そして文学の分野において重要な役割を果たしました。彼女の宮廷は、宮廷風恋愛の理想を育み、文学作品の創造を促しました。その影響は、中世ヨーロッパの文化や社会に深く根付き、後世にまで受け継がれています。

彼女の人生は、王女、摂政、そして文化的なパトロンとしての多面的な側面を示しており、中世の女性が持つ可能性と影響力を象徴していると言えるでしょう。

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