イザベル・ド・エノー

イザベル・ド・エノー：フランス王妃の生涯

イザベル・ド・エノー（Isabelle de Hainaut, 1170年4月5日 - 1190年3月15日）は、フランス王フィリップ2世の最初の王妃であり、エノー伯ボードゥアン5世とフランドル女伯マルグリット1世の長女として生まれました。弟には、後にラテン帝国の初代皇帝となるボードゥアン1世（フランドル伯としては9世）と、第2代皇帝アンリ1世がいます。

結婚と宮廷の動乱

イザベルは幼少期にシャンパーニュ伯アンリ2世との婚約が決まっていましたが、父ボードゥアン5世が、母方の伯父であるフランドル伯フィリップ・ダルザスから、アルトワ伯領を持参金としてフィリップ2世との結婚を提案されたことで、状況は一変します。1180年4月28日、イザベルはフィリップ2世と結婚。この結婚は、王太后アデルの実家であるブロワ家の権威を失墜させ、アデルはイザベルに対抗する派閥を形成、宮廷内は緊張に包まれました。イザベルの王妃戴冠式には、王太后アデルをはじめとするシャンパーニュ派は欠席しました。

文化的な側面と寵愛の失墜

繊細で文化的なイザベルは、先代の王妃アリエノール・ダキテーヌの伝統を受け継ぎ、トルバドゥールを庇護し、『愛の宮廷』を形成しました。その美しさと優しさから、結婚当初はフィリップ2世の寵愛を受けましたが、世継ぎをなかなか懐妊しないことが原因で、1183年頃からフィリップ2世の寵愛は薄れてしまいます。さらに、教会から婚姻の無効を訴えられるという事態にまで発展します。

離婚の危機と民衆の支持

1184年、一度は離婚が決まりかけましたが、イザベルはサンリスの教会で、裸足に粗末な衣をまとい、懺悔の姿で現れ、民衆から熱烈な支持を得ます。また、伯父フィリップ・ダルザスをはじめとするフランス王家の顧問たちは、離婚によるアルトワ領の損失をフィリップ2世に進言し、離婚は回避されました。

カロリング家とカペー家の結合

イザベルの父方の高祖父フランドル伯ボードゥアン2世は、西フランク王国のシャルル2世（禿頭王）の娘ジュディトを母としており、イザベルとフィリップ2世の結婚は、カロリング家とカペー家の結合と見なされました。1187年に生まれた二人の息子ルイ8世が1223年に王位を継承したことで、フランス王位の正統性がより高まったと認識されています。また、この結婚によってもたらされたアルトワ伯領は、フランス王室にとって重要な財産となりました。

若すぎる死

イザベルは1190年3月15日、2度目の出産で男児の双子を出産しますが、難産のため19歳という若さでこの世を去りました。双子のロベールとフィリップも生後3日目で夭折し、その後のフィリップ2世は、インゲボルグという女性と再婚しました。

イザベル・ド・エノーは、その短い生涯の中で、フランス王室の歴史に大きな影響を与えました。政略結婚という困難な状況の中で、彼女は自らの文化的な素養を生かし、民衆の支持を得て、その存在感を示しました。

もう一度検索