マルグリット3世 (フランドル女伯)

マルグリット・ド・ダンピエール（1350年4月13日 - 1405年3月16日/3月21日）は、フランドル女伯（マルグリット3世）およびブルゴーニュ女伯（マルグリット2世）として知られる、中世ヨーロッパの重要な人物です。彼女はまた、アルトワ女伯、ルテル女伯、ヌヴェール女伯の称号も有し、その領地は当時の政治情勢に大きな影響を与えました。

生涯

マルグリットは、フランドル伯ルイ2世とブラバント公ジャン3世の娘マルグリットの間に生まれました。7歳という若さで、ブルゴーニュ公フィリップ1世と結婚しましたが、フィリップ1世はわずか4年後に15歳で死去しました。この結婚は、マルグリットの人生における最初の大きな転換点となりました。その後、ブルゴーニュ公位はフランス王ジャン2世のものとなり、後にジャン2世は息子フィリップ（豪胆公）をブルゴーニュ公に封じました。これがヴァロワ＝ブルゴーニュ家の始まりです。

マルグリットの父ルイ2世は、イングランド寄りの姿勢を示し、イングランド王エドワード3世の三男であるケンブリッジ伯エドマンドとの婚約を進めていました。当時、フランドルは形式的にはフランス国王の支配下にありましたが、経済的にはイングランドとの結びつきが強く、イングランドに従属する状況にありました。この状況は、百年戦争という時代の大きな波の中で、マルグリットの結婚を政治的な駆け引きの道具としました。

フランス王シャルル5世は、マルグリットとエドマンドの近親婚を理由に、ローマ教皇に働きかけ、婚姻許可を取り消させました。これは、イングランドにフランドルを含む広大な領土が渡ることを阻止するための戦略的な行動でした。父ルイはイングランドからの圧力に抵抗しましたが、最終的にはカペー王家出身の祖母の説得により、フィリップ豪胆公との結婚に同意しました。

1369年6月19日、マルグリットとフィリップ豪胆公はヘントで盛大な結婚式を挙げました。この結婚は、百年戦争におけるフランスの戦略的な勝利であり、マルグリットの人生を大きく左右する出来事でした。

1384年に父ルイが死去すると、マルグリットと夫フィリップはフランドル伯位を相続しました。この時までに、兄弟たちはすでに早世しており、マルグリットは広大な領土の統治者としての役割を担うことになりました。

子女

マルグリットは、2度目の夫フィリップ豪胆公との間に多くの子女をもうけました。彼らは、後のヨーロッパ史において重要な役割を果たすことになります。

ジャン（1371年 - 1419年）：ブルゴーニュ公「無怖公」として知られ、ブルゴーニュ公国の発展に大きく貢献しました。
シャルル（1372年 - 1373年）：夭逝しました。
マルグリット（1374年 - 1441年）：下バイエルン＝シュトラウビング公・エノー伯・ホラント伯・ゼーラント伯ヴィルヘルム2世妃となり、これらの地域に影響を与えました。
ルイ（1377年 - 1378年）：夭逝しました。
カトリーヌ（1378年 - 1425年）：オーストリア公レオポルト4世妃となりました。
ボンヌ（1379年 - 1394年）：若くして亡くなりました。
アントワーヌ（1384年 - 1415年）：ブラバント公となり、アジャンクールの戦いで戦死しました。
マリー（1386年 - 1422年）：サヴォイア公アメデーオ8世妃となり、サヴォイア家に影響を与えました。
フィリップ（1389年 - 1415年）：ヌヴェール伯となり、アジャンクールの戦いで戦死しました。

マルグリットの子供たちは、それぞれの結婚や領土を通じて、ヨーロッパの各地に影響を与え、その後の歴史に重要な足跡を残しました。

マルグリットの遺産

マルグリット・ド・ダンピエールの生涯は、中世ヨーロッパの政治と権力闘争、そして家族間の複雑な関係を示す良い例です。彼女は、フランスとイングランドの対立という歴史的な背景の中で、自身の領土を守り、子孫の繁栄を築き上げました。彼女の遺産は、彼女の子供たちの活躍を通して、後世にまで受け継がれています。この時代を生きた女性として、マルグリットは傑出した存在であり、その人生は歴史の中で永遠に語り継がれるでしょう。

参考文献

カルメット, ジョゼフ 著、田辺保 訳『ブルゴーニュ公国』国書刊行会、2000年。
カルメット, ジョゼフ 著、田辺保 訳『ブルゴーニュ公国』筑摩書房〈ちくま学芸文庫〉、2023年。
佐藤賢一『英仏百年戦争』集英社〈集英社新書〉、2003年。

関連項目

* ダンピエール家

もう一度検索