マルグレ＝ヌー

マルグレ＝ヌー：翻弄されたアルザス・モーゼルの人々

マルグレ＝ヌー（Malgré-nous）とは、第二次世界大戦中にナチス・ドイツによって強制的に徴兵された、アルザス地方とモーゼル地方の男性を指す言葉です。「自らの意志に反して」という意味を持つこの言葉は、彼らの置かれた苦境を象徴しています。

歴史的背景

マルグレ＝ヌーという名称は、第一次世界大戦後に生まれました。当時、ドイツ領であったアルザス＝ロレーヌの退役兵団体が、フランスに対するドイツ軍への従軍を強いられた自らの境遇を表現するために用いたのが始まりです。

第二次世界大戦中、ナチス・ドイツはフランスを占領し、アルザス＝ロレーヌ地方を事実上併合しました。1942年、ドイツはアルザスとモーゼルで兵役を義務化し、多くの若者がドイツ国防軍や武装親衛隊に強制的に徴兵されました。彼らは望まぬままドイツ軍の一員として戦うことを強いられたのです。

強制徴兵の実態

徴兵されたマルグレ＝ヌーたちは、主に東部戦線に送られ、ソ連軍との激戦に投入されました。一部はノルマンディー上陸作戦にも参加しています。彼らの多くはまだ10代の若者であり、戦争の悲惨さを目の当たりにすることとなりました。

また、マルグレ＝ヌーたちは、ドイツ軍内で反乱を起こすことを防ぐため、ドイツ人部隊に分散して配属されました。しかし、一部の者は脱走し、フランスのレジスタンス運動に加わったり、連合国軍に投降したりしました。しかし、脱走兵の家族はドイツ当局によって強制収容所に送られるなど、厳しい弾圧を受けました。

戦後の苦難

第二次世界大戦後、マルグレ＝ヌーたちは裏切り者やナチス協力者として扱われることもありました。彼らはフランス共産党の活動家から襲撃を受けたり、裁判にかけられたりするなど、苦難の道を歩みました。オラドゥール＝シュル＝グラヌの虐殺事件に関与したマルグレ＝ヌーたちが裁判にかけられた際には、アルザス地方とリムーザン地方の住民感情が悪化するなど、社会的な軋轢も生じました。

ソ連軍の捕虜となったマルグレ＝ヌーたちは、過酷な強制収容所での生活を強いられました。タンボフ収容所には多くアルザス、モーゼル出身者が収容され、命を落とした者も少なくありません。

マルグレ＝ヌーの犠牲

アルザス＝ロレーヌ地方からは、ドイツ軍全体の約1％にあたる兵力が供給されました。13万人のマルグレ＝ヌーのうち、32,000人が戦死し、10,500人が行方不明となりました。また、5,000人から1万人が捕虜となり、収容所で死亡しました。最後のマルグレ＝ヌーの捕虜が解放されたのは1955年のことです。

マルグレ＝ヌーたちは、ナチス・ドイツによる強制徴兵という悲劇に見舞われ、多くの犠牲を払いました。彼らの苦難は、歴史の教訓として語り継がれるべきです。

脚注

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