マルケリヌス (ローマ教皇)

マルケリヌスは、3世紀末から4世紀初頭にかけて、第29代ローマ教皇を務めた人物です。Liberian Catalogueによると、彼は296年6月30日に教皇の座に就いたとされていますが、他の初期のキリスト教文献には彼の名前が見られないため、その存在には謎めいた部分も残されています。

ディオクレティアヌス帝の治世下、当初キリスト教は比較的自由な状態にあり、マルケリヌスの時代には多くの信者が教会に集まりました。しかし、後に皇帝となるガレリウスがキリスト教を異教とする動きを始めると、状況は一変します。302年頃から、ディオクレティアヌス帝によるキリスト教徒への迫害が始まり、まずキリスト教徒の兵士から武器が没収され、教会の財産が没収され、聖書が焼かれるなど、厳しい弾圧が行われました。

ディオクレティアヌス帝の宮殿が二度にわたって火災に見舞われると、迫害はさらに激化し、キリスト教徒は信仰を捨てるか、死罪に処されるかの選択を迫られるようになりました。この過酷な状況下で、マルケリヌスの運命については、異なる記録が存在しています。Liber Pontificalisでは、ディオクレティアヌス帝の迫害下で、マルケリヌスは信仰を告白し、他の信徒たちと共に殉教したと伝えられています。しかし、5世紀初頭のコンスタンティーヌの司教ペティリアヌスは、マルケリヌスらが迫害を恐れて聖書を捨てたと主張しており、この説をアウグスティヌスが否定するなど、記録には矛盾が見られます。

Liber Pontificalisの記録によれば、マルケリヌスは304年4月1日に亡くなり、同月26日にサラリア街道のプリシラ墓地に埋葬されたとされています。しかし、Liberian Catalogueでは、彼の死は10月25日とされており、死因についても明確な記述は残されていません。マルケリヌスの死後、数年の空白期間を経てマルケルス1世が次の教皇に就任しましたが、この二人の名前が似ていることから、しばしば混同されることがあります。

また、マルケリヌスの在位中には、アルメニアが最初のキリスト教国となったという出来事がありました。彼の教皇としての業績と、その後のキリスト教史における意義は、その複雑な生涯とともに、後世の研究者たちによって議論され続けています。

マルケリヌスの生涯は、ディオクレティアヌス帝による迫害という歴史的背景の中で、信仰と迫害、そしてその記録の不確かさという、多くの謎に包まれたままです。彼の教皇としての具体的な活動や、その人となりは、歴史の霧の中に埋もれてしまっています。

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