ガレリウス

ガイウス・ウァレリウス・マクシミアヌス・ガレリウス：牧夫から皇帝へ、そして悲劇的な最期

ガイウス・ウァレリウス・マクシミアヌス・ガレリウス（260年 - 311年5月5日）は、ローマ帝国の皇帝として、305年から311年まで短いながらも激動の時代を生き抜きました。彼の生涯は、謙虚な出自から権力の頂点へと上り詰めた、ドラマチックな物語です。

輝かしい軍歴とテトラルキアへの参入

ガレリウスは、現在のブルガリア領に位置するセルディカ近郊で生まれました。父はトラキア出身の牧夫、母はロムラという女性でした。彼自身も当初は牧夫として生計を立てていましたが、軍隊に入隊。アウレリアヌス帝やプロブス帝の下で軍功を積み重ね、その能力を認められていきます。293年、ディオクレティアヌス帝によるテトラルキア（四分統治）制の実施に伴い、コンスタンティウス・クロルスと共に副帝に任命されます。この時、ディオクレティアヌス帝の娘ウァレリアと結婚し、イリュリア属州を統治することになります。

サーサーン朝との戦争と東方の拡大

296年、サーサーン朝との戦争が始まると、ガレリウスは東方の戦線に赴きます。最初の戦役では敗北を喫し、メソポタミア地方を失うという苦い経験もしましたが、297年にはアルメニアを介して進軍し、サーサーン朝皇帝ナルセ1世を決定的な勝利で打ち破ります。この勝利は、ガレリウスの軍事才能を改めて示すものとなりました。彼は勢いに乗じてクテシフォンを占領し、298年にはナルセ1世の降伏を受け入れ、メソポタミア地方だけでなく、チグリス川東部の一部地域をもローマの支配下に置きました。これは、ローマ帝国が東方へ版図を最も拡大した時期の一つと言えるでしょう。

正帝への就任と野望

305年、ディオクレティアヌス帝とマクシミアヌス帝の退位後、ガレリウスはコンスタンティウス・クロルスと共に正帝の地位に昇ります。そして、フラウィウス・ウァレリウス・セウェルスと甥のマクシミヌス・ダイアを副帝として擁立しました。ガレリウスの野望は、コンスタンティウス・クロルスが亡くなれば、全ローマ帝国の唯一の皇帝となることでした。その野望を達成するため、コンスタンティウスの息子、コンスタンティヌスを東方の宮廷に招き入れ、自身の地位を固めようとしたのです。

野望の崩壊と隠退

しかし、コンスタンティウス・クロルスの死後、コンスタンティヌスは皇帝の座を宣言。さらにマクシミアヌスとマクセンティウス親子もイタリアで皇帝を名乗り、ガレリウスの計画は頓挫します。307年のイタリア侵攻失敗後、彼は友人のリキニウスを正帝に昇格させます。野望を捨てたガレリウスは、母ロムラを称えて建設したフェリックス・ロムリアナ（現在のセルビア付近）に引退し、残りの日々を過ごしました。

凄惨な最期と歴史的評価

311年5月5日、ガレリウスは死去します。エウセビウスの『教会史』は、彼の死を、恐ろしい病気によるものとして描写しています。この記述からは、大腸癌のような重い病であった可能性が示唆されます。同書には、彼の死の状況が詳細に、そして衝撃的な表現で記されています。この記述は、彼の最期の苦しみを如実に物語っています。

キリスト教徒迫害と寛容令

ガレリウスは、303年のディオクレティアヌス帝によるキリスト教徒迫害を主導した人物の一人として知られています。この迫害は、キリスト教の集会所の破壊など、多くの犠牲者を出しました。しかし、311年4月、病に伏せる中で、彼はキリスト教徒迫害の停止を宣言する布告を出します。この布告は、ローマ帝国におけるキリスト教迫害の終焉を告げる重要な出来事となりました。

ダキア人としてのアイデンティティとローマへの反感

ラクタンティウスの記述によると、ガレリウスは自らのダキア人としてのアイデンティティを強く意識し、ローマ帝国そのものへの反感を持っていたとされます。彼は、帝国の名を「ダキア帝国」とすべきだと主張したとも言われています。このことは、彼の出自とローマ帝国との複雑な関係を示唆しています。

ガレリウスの生涯は、野心と挫折、成功と失敗、そして極端な残酷さと意外な寛容さを併せ持つ、複雑な人物像を描いています。彼の残した功績と過ちは、ローマ帝国の歴史に深い影を落としています。彼の物語は、権力と信仰、そして人間の弱さと強さを改めて考えさせる、貴重な歴史的教訓を提供しています。

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