マルゲリータ・ドゥラスタンティ

マルゲリータ・ドゥラスタンティ：ヘンデルを魅了した歌姫

マルゲリータ・ドゥラスタンティ（Margherita Durastanti）は、18世紀のイタリアを代表するソプラノ歌手の一人として知られています。特に、ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルの作品をイタリア時代から長年にわたって歌い続けたことで、その名声は確固たるものとなりました。

謎に包まれた初期

ドゥラスタンティのデビュー以前の経歴については、残念ながら詳しい情報が残されていません。1700年頃にマントヴァの宮廷に仕えていた可能性があるという記録がある程度です。初めてその名が記録に登場するのは1700年、ヴェネツィアでのパスティッチョへの出演でした。その後、1700年から1701年にかけてマントヴァで上演された2つのオペラに出演しています。

ヘンデルとの出会いと才能の開花

1707年から1709年にかけて、ドゥラスタンティはローマでフランチェスコ・マリア・ルスポーリ侯爵に仕えました。この時期、侯爵のもとには作曲家のアントニオ・カルダーラ、そして若きゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルも滞在していました。この出会いが、ドゥラスタンティの音楽家としてのキャリアを大きく左右することになります。

ヘンデルは、ドゥラスタンティのために数多くのカンタータを作曲しました。その才能に惚れ込んだヘンデルは、彼女に恋心を抱いていたとも伝えられています。1708年にヘンデルが作曲したイタリア語オラトリオ『復活』の初演では、ドゥラスタンティがマグダラのマリア役を演じ、見事な歌唱で聴衆を魅了しました。しかし、オラトリオに女性歌手が出演したことが教皇クレメンス11世の批判を招き、翌日の再演からはカストラートが代役を務めることになりました。1709年8月には、カルダーラのセレナータを歌っています。

ヴェネツィアでの活躍とヨーロッパ各地での公演

1709年から1712年まで、ドゥラスタンティはヴェネツィアのサン・ジョヴァンニ・グリゾストモ劇場のプリマ・ドンナとして活躍しました。アントニオ・ロッティやカルロ・フランチェスコ・ポラローロといった作曲家たちのオペラに多数出演し、その歌唱力と演技力で観客を魅了しました。1709年12月には、ヘンデルのオペラ『アグリッピナ』のタイトルロールを歌い、この作品は大成功を収めました。

その後、ドゥラスタンティはミラノ、レッジョ・エミリア、パルマ、フィレンツェなど、イタリア各地の劇場で歌い続けました。1715年から1716年にかけてはナポリで活動し、アレッサンドロ・スカルラッティのオペラ『Carlo rè d'Alemagna』では、カストラートのセネジーノと共演しています。

ロンドンでの成功と晩年

1718年、ドゥラスタンティはセネジーノら他のイタリア人歌手とともに、ドレスデンのザクセン選帝侯フリードリヒ・アウグスト1世に雇われました。選帝侯とマリア・ヨーゼファの結婚を記念して上演されたロッティのオペラ『テオファーネ』で歌い、その歌声を披露しました。しかし、1720年に宮廷楽長のハイニヒェンとセネジーノの間で争いが起こった結果、イタリア人歌手たちは解雇されることになりました。一説には、その前年にヘンデルがドレスデンを訪れ、彼らをロンドンに招くために騒ぎを起こしたとも言われています。

ロンドンでは、新たにオペラ興業会社である王立音楽アカデミーが設立され、1720年4月2日にジョヴァンニ・ポルタのオペラ『ヌミトーレ』で幕を開けました。4月27日にはヘンデルの新作オペラ『ラダミスト』が上演されましたが、ヘンデルに招かれた歌手の中で、この時までにロンドンに到着していたのはドゥラスタンティのみでした。そのため、彼女がタイトルロール（男役）を歌うことになりましたが、作品は大成功を収めました。12月に『ラダミスト』が再演された際には、セネジーノが到着し、ドゥラスタンティはヒロインのゼノビア役を歌いました。ドゥラスタンティはまた、ボノンチーニやアリオスティの作品も歌い、好評を博しました。

ドゥラスタンティは、カジミーロ・アヴェッローニというロンドンの音楽家と結婚しました。当時妊娠していた彼女を、国王は非常に気に入り、生まれてくる子供の名付け親になろうとしたほどです。

1723年1月にフランチェスカ・クッツォーニが新たにデビューすると、ドゥラスタンティはクッツォーニの人気に押され、またこの頃から高音が衰え始めていました。ドゥラスタンティは『ジューリオ・チェーザレ』（セスト役）やボノンチーニ作品に出演しましたが、1724年までにロンドンを去りました。

1733年、ロンドンではヘンデルのライバルとなる貴族オペラが成立し、主要な歌手をほとんど引き抜かれてしまったヘンデルは、9年ぶりにドゥラスタンティを再び雇いました。この時には声がメゾソプラノに下がっていましたが、『オットーネ』（再演）やパスティッチョ『セミラーミデ』などを歌い、成功を収めました。アン王女の結婚を祝って1734年3月13日に公演されたヘンデルのセレナータ『パルナッソ山の祭礼』にも主要な歌手として参加し、その才能を再び見せつけました。

その後のドゥラスタンティの消息は不明であり、没年も明らかになっていません。しかし、彼女の歌声は、ヘンデルの音楽とともに、18世紀の音楽史に確かに刻まれています。

[参考文献]

クリストファー・ホグウッド著、三澤寿喜訳『ヘンデル』東京書籍、1991年。ISBN 4487760798。
三澤寿喜『ヘンデル』音楽之友社〈作曲家人と作品〉、2007年。ISBN 9784276221710。

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