マルサスの罠

マルサスの罠 (Malthusian Trap)

マルサスの罠とは、人口が指数関数的に増加する一方で、食料供給や資源が線形にしか増えないため、食料が不足すると飢餓などの大規模減少イベントが発生し、最終的には人口や所得水準が元に戻るメカニズムです。この理論はトマス・ロバート・マルサスにちなんで名付けられました。

概要

マルサスの罠は1798年に発表された『人口論』に基づき、マルサスは技術革新によって食料供給が増え、一時的に所得水準が上昇するが、その増加に伴って人口も増えるため、最終的には再び自身が首を絞める結果につながると考えました。この理論に対しては、19世紀の産業革命以降、人類はマルサスの罠から抜け出したとの意見がある一方で、依然として貧困地域が存在していることから、マルサスの罠は現在も影を落としているとの見方もあります。特に、食料不足や環境問題を抱える途上国はこの罠にはまるリスクが高いと言われています。

初期の考え方と批判

トマス・マルサスは、人口増加の速度は国家の幸福に影響を与え、最終的には食料生産の増加が追いつかないと警告しました。彼は、自身の理論に対して多くの批判にさらされ、特にフリードリヒ・エンゲルスから指摘を受けました。マルサスは、高出生率が労働者階級の貧困の原因であるとの見解を示し、これがまたマルクス主義者からの反発を招く結果となりました。

近代的定式化

マルサスの理論は、近代に入るとクアムル・アシュラフとオデッド・ガローによって再定式化されました。彼らによれば、所得が上昇すると出生率が上がり、その結果、人口が増加して一人当たりの所得が減少するというサイクルが生じるとのことです。技術革新は短期的に一人当たりの所得を引き上げますが、長期的にはその効果が薄れると述べられています。

チェックメカニズム

マルサスは人口を制御する二つのメカニズム、「予防的チェック」と「積極的チェック」を提唱しました。

予防的チェック

これは避妊や教育を通じて出生率を低下させる手法で、人口増加を抑止する役割を果たします。

積極的チェック

戦争、疫病、飢餓などによって人口を減少させる方法で、これが具体的にマルサス的大惨事と呼ばれるものです。もし人口の増加が食料供給を超えれば、このチェックが作用し、人口が減少することになります。

実証的事実

歴史的なデータにおいて、人口が増大する一方で、一人当たりの所得にはほとんど変化が見られなかった例が多くあります。例えば、紀元前1800年から1600年のバビロニアや、1800年のイギリスでも賃金は安定して低い状態でした。これにより、マルサスの罠が機能していることが確認されます。

現代におけるマルサスの罠

最近では、東アフリカなどの低所得国で急激な人口増加が見られ、これがマルサスの罠と見なされています。例えば、ルワンダの人口圧力は食料供給を圧迫し、悲劇的な結果を招いたとされます。

マルサスの罠からの脱却

一方で、産業革命以降、特に20世紀には、機械化農業や緑の革命によって食料生産性が向上し多くの先進国では人口が逆に減少傾向にあります。これにより、マルサスの予測が必ずしも正しいわけではないことが示されています。

未来への展望

国際連合は、21世紀後半には世界の人口がピークに達する可能性を示唆していますが、マルサスの理論が完全に当てはまるわけではなく、経済の成長と技術革新が新たな道を拓いていることを忘れてはなりません。持続可能な社会の構築には、多様な戦略が求められます。

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