マルジュ・ダービクの戦い

マルジュ・ダービクの戦い：オスマン帝国とマムルーク朝の激突

1516年8月24日、シリア北部ハラーブ近郊のマルジュ・ダービク（ダービク平原）において、オスマン帝国とマムルーク朝は歴史的な決戦を繰り広げました。この戦いは、中東の勢力図を劇的に変え、オスマン帝国の台頭を決定づける重要な出来事となりました。

戦いの背景

オスマン帝国のスルタン・セリム1世率いる遠征軍がシリアに侵攻したとの報を受け、マムルーク朝のスルタン、カーンスーフ・アル＝ガウリーは、アレッポより自ら率いる軍勢を率いてダービク平原に布陣しました。マムルーク軍は、ダマスカスの太守サイ・ベイが率いる右翼、アレッポ太守ハーイル・ベイが率いる左翼、そしてスウードン・アルアジャミーが指揮する中央軍から構成されていました。

しかし、オスマン帝国は既にハーイル・ベイへの内応工作を成功させており、戦いは、帝国側にとって有利な状況で幕を開けることとなります。

戦いの経過

戦闘は、早朝にオスマン軍の先制攻撃によって開始されました。中央軍と右翼軍が勇猛果敢に突撃するマムルーク軍の猛攻の前に、オスマン軍は一時的に劣勢に立たされました。マムルーク騎士の突撃は凄まじく、オスマン軍は約2万の損害を出すほどでした。セリム1世は、戦況の悪化に一時的な後退を余儀なくされたと伝えられています。

しかし、この状況は、ハーイル・ベイの寝返りによって一変しました。彼は、マムルーク軍内部に偽の命令を流布し、古参兵以外の部隊の戦闘停止を命じたかのように見せかけました。これにより、マムルーク軍の士気は大きく低下します。

さらに、スウードンとサイ・ベイという主要指揮官を失ったマムルーク軍は、中央軍と右翼軍の退却を開始しました。ハーイル・ベイは、退却するふりをしながら、「スルタン・アル＝ガウリーは殺され、我々は敗れた。逃げるのだ！」と叫び、マムルーク軍の総崩れを招きました。

実際にはアル＝ガウリーは健在でしたが、彼の必死な抵抗も虚しく、軍は完全に崩壊しました。武器部長のタムラーズの敗北と脱出を勧める進言を受け、ショックを受けたアル＝ガウリーは脳溢血で倒れ、死亡しました。

オスマン軍は、敗走するマムルーク軍を徹底的に追撃し、アル＝ガウリーの天幕から莫大な戦利品を手に入れました。

戦いの影響とオスマン帝国の火砲

この戦いのオスマン帝国の勝利には、いくつかの要因が考えられます。まず、オスマン軍は、従来の騎兵に加え、イェニチェリと呼ばれる精鋭歩兵部隊を投入しました。イェニチェリは、大砲や鉄砲といった近代的な火器を装備しており、マムルーク軍の弓矢や刀剣といった従来の兵器を圧倒しました。

マムルーク軍は、従来の騎兵戦術に固執し、火器の利用が遅れていた点も敗因の一つでしょう。それに加え、ハーイル・ベイの寝返りは、マムルーク軍にとって致命的な打撃となりました。

マルジュ・ダービクの戦いの敗北は、マムルーク朝にとって決定的なものとなりました。翌年にはカイロが陥落し、マムルーク朝は滅亡しました。この戦いは、オスマン帝国による中東支配の始まりを告げるものとなりました。

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