セリム1世

セリム1世：オスマン帝国の領土拡大とスンナ派の盟主への道

セリム1世（1470年 - 1520年）は、オスマン帝国の第9代皇帝として、その短い治世において帝国の版図を大きく広げ、オスマン帝国をスンナ派イスラム世界の中心へと押し上げました。

生涯と即位

父であるバヤズィト2世からトラブゾン知事に任命されたセリムは、東方への関心を強く抱いていました。しかし、父の消極的な姿勢に不満を持ち、兄たちを出し抜いて帝位を狙うようになります。当初は継承順位が低かったものの、サファヴィー朝の影響を受けた反乱を機に、クーデターを画策。一度は失敗しクリミアへ追放されますが、1512年にイェニチェリの支持を得て兄たちを排除し、父を退位させて皇帝の座を手にしました。即位後、内紛の芽を摘むため、兄弟やその子らを次々と粛清。父の死にも、セリム1世の関与が疑われています。

東方への拡大政策

先代までの皇帝が主にバルカン半島への進出に注力していたのに対し、セリム1世は東方への領土拡大を積極的に推進しました。アナトリア半島の豪族たちがサファヴィー朝と結びつき反乱を起こす状況を打開するため、国内の地盤を固める必要もありました。

即位後、ハンガリーとの和睦を成立させ、アナトリア半島のサファヴィー派を粛清して背後を固めると、1514年に西アジアへ出陣。チャルディラーンの戦いでサファヴィー朝のイスマーイール1世を破ります。この戦いで、大砲や鉄砲といった火力を重視したオスマン帝国軍が勝利し、戦術の優位性を示しました。その後もクルディスタンや南アナトリアを制圧し、領土を東へ拡大していきます。

アラブ遠征とスンナ派の盟主へ

1515年からはアラブへの遠征を開始し、1516年にはアルジェを占領。マルジュ・ダービクの戦いでマムルーク朝軍を破り、1517年にはカイロを陥落させました。これにより、マムルーク朝を滅ぼし、シリア、エジプト、パレスチナを併合。アッバース朝のカリフを保護するも監禁し、最終的には獄死させアッバース朝を完全に滅亡させました。また、シーア派のサファヴィー朝に対抗し、アラブの人々の支持を得るため、スンナ派の擁護を標榜。聖地メッカ、メディナをオスマン帝国の保護下に置いたことで、オスマン帝国はスンナ派イスラム世界の盟主としての地位を確立しました。

突然の死と評価

エジプトからの帰還後、ロドス島への遠征を計画中に病に倒れ、即位からわずか8年後の49歳で崩御しました。帝位は子のスレイマン1世が継承。セリム1世の治世は短期間でしたが、その間に帝国の領土は大幅に拡大し、父から受け継いだ230万平方キロメートルから650万平方キロメートルへと拡大しました。

セリム1世は「冷酷者（ヤヴズ）」と呼ばれましたが、文芸を愛し、詩を詠む一面も持ち合わせていました。その厳格さと大胆な行動力は、反対者を容赦なく処刑した一方で、帝国の発展に大きく貢献しました。彼の業績は、祖父であるメフメト2世に匹敵すると評価する歴史家もいます。

セリム1世は、オスマン帝国の歴史において、重要な転換点をもたらした皇帝の一人として、その名を刻んでいます。

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